賃貸人からの解約申入れ
アパートを借りて住んでいますが,大家さんから,「建物を取り壊したい」という理由で立ち退きを迫られました。応じなければなりませんか?
賃貸借契約書に期間の定めがあり,期間満了前の申入れである場合
賃貸借契約に中途解約条項がある場合
賃貸人からの解約申入れの場合は,「正当の事由」があれば(借地借家法28条)認められます。賃貸人の解約申入期間は少なくとも6か月間は必要であると解されています(同法27条1項)。
賃貸借契約に中途解約条項がない場合
賃貸人からの解約の申入れはできません。ただ,賃借人が解約に合意すれば,合意解約できます。
賃貸借契約書に期間の定めがあり,期間満了時に更新をしないという申入れの場合
期間満了の1年前から6か月前までの間に,相手方に対し,「更新をしない」旨の通知をする必要があります。この通知(更新拒絶)が認められるためには,「正当の事由」(借地借家法28条)が必要です。
期間の定めがない賃貸借契約の場合
賃貸人は,「正当の事由」があれば,6か月の期間をおいて解約の申入れをすることができます(借地借家法27条,同28条)。
「正当の事由」(借地借家法28条)とは
賃貸人が,更新拒絶,建物使用継続に対する異議,解約の申入れをするためには,「正当の事由」がないといけません。
借地借家法28条は,
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- 賃貸人と賃借人が建物の使用を必要とする事情
- 建物の賃貸借に関する従前の経過
- 建物の利用状況
- 建物の現況
- 建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出
を考慮して,その有無が判断されるものとしています。
1「建物の使用の必要性」は,正当事由の主たる判断要素であり,2~5は補完的に考慮されます。
立退料の支払は,補完的要素といわれているものの,実際には大家さんと賃借人の間で額をめぐって主な対立点となることがままあります。裁判の現実としても,立退料の提供をまったくしないで「正当の事由」が認められることは、極めて稀といえます。立退料の具体的金額がいくらになるかも,様々な事情を総合的に考慮することになるため一概にはいえませんが,迷う場合は専門家に依頼することも選択肢としてあり得ると思います。
(参考)賃借人からの解約申入れ
立場を変えて,賃借人から解約を申し入れる場合についても整理しておきたいと思います。
賃貸借契約書に期間の定めがあり,期間満了前の申入れである場合
賃貸借契約に中途解約条項がある場合
賃借人は,定めた中途解約条項に従って解約の申入れをすることができます。
賃貸借契約に中途解約条項がない場合
契約期間中での解約を認める条項がない場合は,原則として賃借人は解約の申入れはできません。ただ,賃借人にとって予測困難な事情の変化によって住み続けることが困難になったときは,事情変更の原則により契約が認められる場合があるかもしれません。また,賃貸人が解約に合意すれば,当然,合意解約できます。
賃貸借契約書に期間の定めがあり,期間満了時に更新をしないという申入れの場合
期間満了の1年前から6か月前までの間に,相手方に対し,「更新をしない」旨の通知をする必要がありますが(借地借家法26条1項),賃借人からの場合は正当事由は不要です。
期間の定めがない賃貸借契約の場合
賃借人から解約を申し入れる場合は正当事由は不要で,解約の申入れ日から3か月経過後に賃貸借が終了します(民法617条1項)。