改正前,要物契約とされていた消費貸借と使用貸借,寄託については,改正により諾成契約化されました。
消費貸借
改正前の民法では,消費貸借は要物契約とされていましたが,
・実際に金銭等の交付を受けるまで契約が成立しないとすると,借主は契約に基づく引き渡し請求ができず,融資を前提とした運用計画等が立てられないといった不都合が指摘されており,
・実務上は合意のみによって成立する諾成的消費貸借が広く利用されていました。
そこで改正法では,従来の要物契約としての消費貸借(民法587条)を維持しつつ,
新たに,書面によることを要件として,合意のみで消費貸借契約の成立を認める規定を新設しました(民法587条の2)。
*諾成的消費貸借に書面を要件としたのは,消費貸借に関する合意が安易になされることを防止するためです。
そして,書面でする諾成的消費貸借が成立した場合でも,貸主から金銭等を受け取るまでは,借主は契約を解除することができるものとされています(改正法587条の2第2項)。
*受け取り前に資金需要がなくなる場合もあり,借主に借りる義務を負わせないためです。
借主の受取前解除により,貸主に損害が生じた場合には,貸主は借主に対し,損害賠償を請求することができますが(民法587条の2第2項後段),約定の利息額が当然に請求できるというものではなく,相当調達コストのかかる高額融資の場合等,損害の発生が認められるケースは限られると解されています。
また,借主は,返還時期の定めの有無に限らず,いつでも目的物を返還できることとされています(民法591条第2項)。
* 返還時期の定めは通常,借主のために目的物の返還を猶予するものであり,借主に目的物を借りる義務を負わせるものではないからです。
返還時期前の返還により貸主に損害が生じた場合は貸主は借主に損害賠償を請求することができますが,こちらも限定的な場合に限られるものと考えられています。
このほか,以下の点に関して規定が置かれました。
- 貸主は特約がなければ借主に対し利息を請求できません(民法589条第1項)。
- 利息を付す特約があるときは,貸主は金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができます(同条第2項)。
- 利息付消費貸借の場合,売買の契約不適合責任の条文が準用されることになりますので(559条),貸主は引き渡された物が契約の内容に適合しない場合,借主に対し,代替物の引渡義務,損害賠償義務等の担保責任を負います。
- 無利息の消費貸借においては,無償契約のため,贈与の規定が準用されており(590条第1項・551条),契約時など目的物が特定した時の状態で引き渡せば足りることになります。
- 利息の特約の有無にかかわらず,引き渡された物が契約の内容に適合しない場合,借主はその物の価格を返還することができます(590条第2項)。*瑕疵ある物を返還することは困難であるため,価格の返還で足りることにしたものです。
使用貸借
改正により,使用貸借は要物契約から諾成契約に改められました(民法593条)。
* したがって,当事者間の合意があれば,目的物の交付がなくとも効力が生じます。
ただし,使用貸借は無償契約なので,贈与の場合と同じように,契約の拘束力を緩和する(貸主に契約から離脱する権利を認める)のが妥当です。
そこで,改正法は,貸主は,解約が書面による場合を除き,借主が借用物を受け取る前までは,契約を解除することができるものとされました(民法593条の2)。
* 借主からの解除はいつでも可能です(民法598条第3項)。
また,使用貸借の貸主の担保責任について,使用貸借が無償契約であることから贈与の規定を準用し(596条・551条),使用貸借の目的物として特定された時の状態でその物を引き渡すことを合意していたものと推定されることになっています。
* このため,貸主は特定された時の状態で引き渡せば足りることになりますので,貸主の担保責任が軽減されています。
以下は実質的な改正はありませんが,概念が整理されています。
- 期間を定めた場合の期間満了
- 使用及び収益の目的を定めた場合において,借主がその目的に従い使用及び収益を終えた
- 借主の死亡
- 使用及び収益の目的を定めた場合において,目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間の経過
- 貸主は,使用貸借の期間,並びに使用及び収益の目的を定めなかった場合は,いつでも解除可能
- 借主は,いつでも解除可能