未払賃料請求と賃料不払いで解除した後の賃料相当損害金の請求

賃貸している建物の賃借人が、賃料を支払わないため、出て行ってもらいたいです。

このような場合、相当な期間を定めて賃借人に対し未払賃料の支払いを催告し、相当期間が経過しても支払いがなかった場合は賃貸借契約を解除します。
*ここでは、信頼関係破壊については触れません。

賃借人が任意に出て行ってくれない場合は、訴訟をすることになります。

少し前に、訴状を作成していて、思わぬ問題にいろいろと気づくことになったため、今日はその件について書きたいと思います。*間違っているところがあるかもしれません。

訴訟は、「建物明渡等請求事件」として、
【A】 建物の明渡し請求
【B】 未払賃料の請求
【C】 解除してから明渡までの賃料相当損害金の請求
をするのが普通です。
本日フォーカスしたいのは、金銭請求の部分(上記BとC)です。

たとえば、賃料1か月10万円で貸したところ、
令和元年10月分からの賃料が不払いになっているとします。
賃貸人は相当の期間を定めて未払賃料の催告をし、仮に解除の通知が令和3年7月31日に賃借人に到達したとします。

上記の例の場合、
未払いとなっている令和元年10月分から、令和3年7月分までは、賃貸借契約に基づく賃料の請求をします【B】。
契約は令和3年7月31日に解除されているので、同年8月から賃借人が明け渡してくれるまでは、賃借人が目的物を返還してくれないこと、ないし権限なく占拠していることによって、賃貸人が被る損害の損害賠償を請求するということになります。ここでの損害額は、賃料相当額と考えるのが通常です。令和3年8月1日から明渡しまでは、賃料相当損害金の請求をするということになります【C】。

多くの場合、訴状は、【B】未払賃料合計210万円(令和元年10月~令和3年7月分=21か月分)と、【C】令和3年8月~明渡しまで1か月10万円の割合による損害金の請求をする、と記載して請求すると思います。

上記の例では、解除の通知が令和3年7月31日に到達しているため、7月はまるまる1か月契約があることになるので、1か月の賃料10万円を7月分まで請求できますが、このように区切りの良い日に解除の通知を賃借人が受け取ってくれるとは限らず、月の途中に解除の通知が賃借人に到達することの方が多いと思います。
たとえば、令和3年7月4日に解除通知が到達した場合、同年7月4日までの未払い賃料【B】と、同年7月5日からの賃料相当損害金【C】の請求をするということになりますが、損害金も賃料と同額とするのが通例ですので、月の途中で解除されようと、解除の前と後を合わせて金額としては1か月10万円ということになるため、普通はあまり問題にならないのだと思います。

ですが、賃料には支払い期限があります。
普通は契約書に定めてあり、多くは翌月分を毎月末日限り(2月分を1月末までに払う)と定めていることが多いかもしれません。
もし、契約で定めなかった場合は、民法614条により、当月分を毎月末日限り(2月分は2月末までに払う)になります。

民法
第614条(賃料の支払時期)
 賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。

そうすると、当月分を毎月末日払いの場合、令和元年10月分の家賃は同年10月31日までに、同年11月分の家賃は11月30日までに支払わなければならなかったものなので、各期限の翌日から遅滞となっています。10月分の家賃に対しては11月1日から、11月分の家賃に対しては12月1日から、12月分の家賃に対しては翌年の1月1日から、支払われるまでの遅延損害金が請求できるということになります(民法419条)。

そうすると、先ほどの、解除の通知が7月4日に賃借人に到達した場合、7月1日から7月4日までの賃料は、いくらになるのでしょうか?
契約書に定めがある場合、例えばですが、「1か月に満たない期間の賃料は、1か月を30日として日割計算した額とする。」というように、定めている場合は、契約書に書いてある通りの計算で日割りになります。
契約に定めがない場合は、民法89条2項により、日割りになります。

民法
第89条(果実の帰属)
2 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。

したがって、契約書で定めていない場合は、7月1日から4日までの賃料は、10万円÷31日×4日分の1万2903円になると思います。
*計算すると、12093.2258・・・となりますが、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」3条1項により、端数が50銭未満なので切り捨てています。

通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
第3条(債務の支払金の端数計算)
1 債務の弁済を現金の支払により行う場合において、その支払うべき金額(数個の債務の弁済を同時に現金の支払により行う場合においては、その支払うべき金額の合計額)に五十銭未満の端数があるとき、又はその支払うべき金額の全額が五十銭未満であるときは、その端数金額又は支払うべき金額の全額を切り捨てて計算するものとし、その支払うべき金額に五十銭以上一円未満の端数があるとき、又はその支払うべき金額の全額が五十銭以上一円未満であるときは、その端数金額又は支払うべき金額の全額を一円として計算するものとする。ただし、特約がある場合には、この限りでない。

そうすると、令和元年7月分は、1万2903円に対し、同年8月1日から支払日までの遅延損害金が請求できるということになります。

ところで、ここでまた問題があります。遅延損害金は年利何パーセント請求できるのでしょうか?
改正民法が令和2年4月1日から施行されています。*関連記事(民法改正~法定利率)はこちら
遅延損害金については「損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率による」(民法419条1項)と定められていますので、令和2年4月1日から遅滞になる令和2年3月分の賃料からは年3パーセント、それ以前(令和2年2月分まで)は年5パーセントということになります。

民法
第419条(金銭債務の特則)
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
大分疲れてきましたが、また問題があります。解除後は、遅延損害金は請求できないのでしょうか。
契約を解除した後、賃借人が建物を明け渡してくれるまでの間は、賃料相当の損害金を請求します。賃料と同じ1か月10万円です。
解除前の未払賃料は、各期限後の遅延損害金を請求できますが、解除後の賃料相当損害金については、いつから遅延損害金を請求できるのでしょうか。
これは、訴訟物をどのように考えるかに関係してきます。
契約解除後の賃料相当損害金の請求は、
  1. 目的物返還債務の履行遅滞に基づく損害賠償請求
  2. 不法行為に基づく損害賠償請求
  3. 不当利得返還請求

3つの構成が可能と考えられています。1と3の構成の場合、期限の定めがない債務となり、請求しないと遅滞になりません(民法412条3項)。そうすると、解除してから大分経ってから請求したり訴訟を提起したような場合、それまでの間の遅延損害金が請求できないので、解除時期が早ければ早いほど損をするといいますか、不利益になってしまいます。また、既に賃借人が退去しているならよいのですが、まだ退去してくれていない場合、過去分を請求したとしても以後も退去するまで損害金が発生し続けます。
かといって、不法行為時から遅滞とできる不法行為構成(2)にするとしても、不法行為である不法占拠は日々発生していますので、起算点はいつなのか?(1日単位?月単位?)という問題があり、日ごとに発生するとしてもこれを明示して訴状を作成することは事実上難しい(煩雑に過ぎる)と思われます。

理論的には、主請求の建物明渡請求【A】は、賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権として構成するでしょうから、附帯請求の賃料相当損害金請求【C】も、目的物返還義務の履行遅滞に基づく損害賠償請求(1)と構成するのが整合的でしょう。
そうすると、先ほど書いたように、解除の時期が早ければ早いほど、解除後の賃料相当損害金に対する遅延損害金が当然には請求できず(請求するまで遅延損害金が発生せず)、解除の前と後で差が出て不利になるような気がしますが、このあたりは致し方ないようです。だからこそ、契約書に違約金条項(賃料額の2倍とする条項などをよく見ます)を定めておく必要があるのだと思います。

請求できるものが大体明確になったように思いますが、未払賃料と、これに対する各支払期日以後の遅延損害金を請求する場合、それをどのように訴状に書くかという問題がありました。書籍等に書式がありません。
そこで、過払金請求の訴状を参考にして、解除日がたとえば令和3年7月31日の場合、解除日でいったん区切り、
令和3年7月31日時点までの未払賃料の合計と、各月の賃料に対する各支払期限の翌日から令和3年7月31日までの遅延損害金の合計額を出し、「〇〇万円(令和3年7月31時点の未払賃料と遅延損害金の合計額)及びうち金〇円(未払賃料の合計額)に対する令和3年8月1日から支払済みまで年〇パーセントの割合による金員、並びに令和3年8月1日から明渡済みまで1か月金10万円の割合による金員を支払え」と書いてみました。*実際は、「うち金〇円」以後の部分は、令和2年4月1日の改正民法の施行前と後の部分で分けて、5パーセントと3パーセントで請求しています。また、実際は、月の途中での解除で賃料は当月末日払いだったため、最後の賃料発生月の末日で区切りました。
以前、マンション管理費の請求だったかと思いますが、訴状に別表をつけて、「別紙未払管理費明細表?A欄記載の各金員(各管理費)に対するB欄記載の各支払期限の翌日から支払い済みまで年〇%の遅延損害金」というように書いたことがあったと思いますので、未払賃料もそのように、別表をつけて作成してもよいのかもしれません。

自身の住まいの家賃が払えなくなっている賃借人に未払賃料を請求しても、もともと回収は難しいと考えられます。煩雑になりますし、遅延損害金はなしに、未払賃料と賃料相当損害金をそのまま請求するのでよいかもしれません。資力のある連帯保証人がいて保証人からの回収が見込める場合や、当事者間でその他の問題を含め(例えば修繕義務違反や原状回復義務等)ガチガチに争いになっているような場合は、賃貸人の利益をできる限り損なわないようにするため、遅延損害金を含めMAX請求する方向でいく方がよいかもしれません。
また、賃料の不払いを放置しておくと賃貸人の損害が拡大していきますので、早めに動いた方がよいでしょう。ちなみに、5年も放置することはないかと思いますが、滞納家賃の消滅時効は5年です。