【個人再生】住宅に住宅ローン以外の担保権が設定されている場合

住宅に,住宅ローン以外の債務を担保するための抵当権等の担保権が設定されている場合は,住宅資金特別条項を利用することができません(民事再生法198条1項但書前段)。

住宅資金貸付債権の抵当権以外の担保権が実行されて,再生債務者が自宅を失うおそれがある場合は,住宅資金特別条項の定めが無意味になってしまうためです。

民事再生法198条1項:住宅資金貸付債権(民法第499条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。)については,再生計画において,住宅資金特別条項を定めることができる。ただし,住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき,又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に第53条第1項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは,この限りでない

 

では,住宅に住宅ローン以外の債務を被担保債権とする後順位抵当権が設定されているような場合に,住宅資金特別条項を利用するためには,どうしたらよいでしょうか。

(1) 担保権を消滅させる

住宅資金特別条項を利用するため,申立前に(遅くとも再生計画案の認可・不認可決定までに)当該担保権を消滅させる必要があります。

申立前に親戚等の第三者が弁済し,担保権を消滅させることにより,住宅資金特別条項を利用することは当然可能です。
住宅に後順位担保権をカバーする担保価値がない場合には,実質的には債権者が変更したのと変わりませんし,カバーする担保価値がある場合では後順位担保権が消滅する分だけ清算価値が上がりますので,他の債権者を害することもないと考えられます。
この場合,弁済した第三者が債務者に対する求償権を再生債権として届け出るか否かは,第三者次第ということになります。

では,再生債務者である申立人が弁済する場合はどうでしょうか。
申立人が支払不能後に弁済することは破産手続においては否認対象行為となります(破産法162条1項)。個人再生手続においては,再生債務者によって否認対象行為が行われた場合は,清算価値の算定において,否認権を行使したと仮定した場合に増えたであろう再生債務者の財産を基準として計画案を策定することになります。したがって,住宅に後順位担保権をカバーする担保価値がない場合は,弁済額を清算価値に上乗せすることになり,その分,履行可能性の点で厳しくなることがあります。

(2)別除権協定

別除権の行使により再生債務者が担保目的物である財産を失うことを避けるため,別除権者との間で別除権の取り扱いに関する合意をする方法があります。いわゆる「別除権協定」です。

別除権協定では,通常,当該物件を評価し,再生債務者がその評価額相当額を別除権者に再生計画とは別に別除権者に分割して支払うことで,別除権者は別除権の行使をしないこと,全額の支払いが完了した場合は担保権の解除を行うこと,被担保債権がその物件の評価額を超える場合は不足額を再生債権として取り扱うことを内容とします。

 

私はマンションを持っていて,管理費の滞納があるのですが・・・

民事再生法198条1項但書前段「住宅の上に第53条第1項に規定する担保権(第196条第3号に規定する抵当権を除く。)が存するとき」の「第53条第1項に規定する担保権」には,抵当権のみならず,特別の先取特権や質権も含まれます
注意すべきはマンションの管理費等に滞納がある場合です。
分譲マンションの管理組合は,管理費や修繕積立金など区分所有者に対して有する債権について,債務者の区分所有権及び建物に備え付けた動産の上に特別の先取特権を有しています(区分所有法7条1項)。
区分所有法7条1項:区分所有者は,共用部分,建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について,債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても,同様とする。
2項:前項の先取特権は,優先権の順位及び効力については,共益費用の先取特権とみなす。

管理費等の先取特権は,債務名義なしに,当該区分所有者に対し不動産競売を申し立てることができるので,個人再生手続中に管理組合による不動産競売の申立があると,不動産(区分所有権)を失う可能性があります。
したがって,管理費等の滞納があると,住宅の上に別除権である担保権が存することになり,住宅資金特別条項の利用ができないことになります
よって,申立前に管理費等の滞納を解消しておく必要があります

 

ここで,疑問に思ったことがあります。この点については,手持ちの文献に記載を発見できなかったので,今後分かれば適宜ブログを更新したいと思います。

  • 申立前に管理費の滞納を解消した場合,解消のために払った金額を清算価値に計上すべきなのか。

この点,『個人再生の実務Q&A120問』には,被担保債権がオーバーローンであれば,弁済額を清算価値に計上する必要があるが,被担保債権が担保価値を下回っており,管理費等の先取特権が当該住宅に対して担保価値を把握している状態であれば,申立人の管理組合に対する弁済は有害性を欠き否認対象行為とはならないため,清算価値に計上する必要はないと解される,との記載がありました。
ただ,滞納管理費等は民事再生法122条で一般優先債権にあたるとされていると思いますが,同条との関係ではどうなのでしょうか?一般優先債権であるならば,再生手続によらず随時弁済できますし,減額もされないので,滞納を解消しても弁済額を清算価値に計上しなくてもよいのではないか?

民事再生法122条1項:一般の先取特権その他一般の優先権がある債権(共益債権であるものを除く。)は,一般優先債権とする。
2項:一般優先債権は再生手続によらないで,随時弁済する。
  • 管理費等に基づく先取特権は,登記された抵当権に対抗できないので(区分所有法7条2項,民法336条),住宅ローン債権がオーバーローン状態(担保割れ)の場合は,民事再生法198条1項但書の趣旨に反せず,住宅資金特別条項が利用できることにならないのか?

管理組合と別除権協定を結ぶことについては,住宅ローンがオーバーローン状態になっており管理組合が有する先取特権は担保価値を把握していないことになるにもかかわらず,別除権協定により管理費等を分割払いすることは,再生債権の分割禁止(民事再生法85条1項),あるいは債権者平等原則(同法155条1項本文,229条1項,244条)に抵触するおそれがある,という記載がありました(『個人再生の実務Q&A120問』)。