自己破産と個人再生

借金を返すのが困難になってきてしまったが,破産した方がいいのか・・・自宅を失いたくない,警備員をしているが職を失いたくない・・・etc。個人再生では借金を大幅に減らせるらしいけれど,本当なのか?破産とどう違うのか?
そのような疑問が少しでも解消されればと思います。

自己破産

自己破産は,ざっくりいうと,借金を返さなくてもよくなりますが,代わりに持っている財産はほとんど処分(換価)され,配当にまわされます。

 

破産手続は,現時点の財産をすべて処分して借金等の返済に充てる清算手続です。破産手続自体は清算を行うにとどまり,借金を支払う責任を免れるためには,別途,免責許可決定を得ることが必要になります。

破産手続

破産手続とは,債務者の財産を金銭に換えて債権者に公平に分配する手続です。
裁判所が破産手続の開始を決定し,破産管財人を選任して,その破産管財人が債務者の財産を金銭に換えて,滞納していた税金等があれば支払い,債権者に配当します。

破産手続開始決定がなされると官報に公告され,各種の義務や制限が発生します。

  • 破産管財人や裁判所の行う調査に協力し,必要な説明をする義務を負う。
  • 居住制限を受ける(裁判所の許可なく転居や長期の旅行ができなくなる。)。
  • 郵便物等が破産管財人に転送される。
  • 保険募集員,警備員,弁護士,税理士,後見人等,一定の職業等に就くことができなくなる(ただし手続期間中)

債務者に財産が存在する場合には,原則として破産手続開始決定の際に破産管財人が選任されます(管財事件)。もっとも,破産管財人を選任する必要がないようなケースについては,破産手続開始と同時に破産手続が廃止されることがあります(同時廃止事件)。この場合は破産管財人は選任されません。

免責手続

免責手続とは,破産手続開始当時に債務者が負っていた債務につき,法律上の支払義務を免除し,これによって破産者の経済的な立ち直りを図ろうとする制度です。

破産手続の開始決定が得られても,それだけでは負債を免除する効果はありません。債務の支払義務が免除されるには,別に免責許可の申立てを行い,免責許可決定を得る必要があります。

しかし例えば,債務者に次のような事由(免責不許可事由)があるときは,免責が認められないことがあります。
・ 破産手続や免責手続において虚偽の説明・陳述をした場合
・ 浪費やギャンブルによって負債を増やした場合
・ クレジットで購入した商品をすぐに換金して負債を増やした場合
・ 財産を隠したり,価値を減少させるような行為をした場合
・ 支払能力について,債権者を欺いた場合
・ 過去7年以内に確定した免責許可決定を受けている場合
免責不許可事由に該当する行為があっても,その程度が軽微であれば,事案によっては裁量により免責が認められることがあります。

  • 破産手続開始の申立てをした場合(法人等を除く。)には,これと同時に免責許可の申立てをしたものとみなされますので,別に免責許可の申立てをする必要はありません。
  • 免責許可を受けても,一部免責されない債権があります(非免責債権)。租税の請求権,悪意で加えた不法行為による損害賠償請求権,さらに故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権や,子どもの養育費等がそれにあたります(支払義務は免除されません。)。

個人再生

個人再生は,ざっくりいうと,住宅ローン以外の債務を5分の1(持っている財産の総額がこれより多いときはその額)にして返済する計画をたて,3年(or5年)で返していきます。

個人再生手続きとは,将来継続的収入を得る見込みがある個人で,住宅ローン等を除く借入金等(債務)の総額が5000万円以下の債務者が,借入金などの返済ができなくなるなど経済的に苦しい状況にある場合に,将来の収入によって,債務を分割して返済する計画を立て,債権者の意見などを聞いたうえでその計画を裁判所が認めれば,その計画に従って返済をすることによって残りの債務(養育費など一部の債務を除く)が免除される手続です。

種類

個人事業者などの「小規模個人再生
給与を得ている人の「給与所得者等再生
の2種類があります。いずれも個人の再生手続です。

小規模個人再生とは

継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり,住宅ローン等を除いた債務が5000万円以下の人が利用できる手続です。収入をもとに,原則3年(もしくは5年)で分割弁済することを内容とする再生計画案を作成し,裁判所の認可を受けて履行することにより残債務が免除されます。

返済する総額は,債務の総額により決まる最低弁済額以上で,かつ,債務者が破産手続を選んだ場合に配当される額を上回らなければなりません。
最低弁済額(無担保の債務の総額に応じた次の金額)

100万円未満の場合・・・・・・総額全部
100万円以上500万円以下の場合・・・・・・100万円
500万円を超え1500万円以下の場合・・・・・・総額の5分の1
1500万円を超え3000万円以下の場合・・・・・・300万円
3000万円を超え5000万円以下の場合・・・・・・総額の10分の1

②清算価値

破産の配当と比べて有利になってはいけないので,計画による弁済額は,自分の財産をすべて処分した場合に得られる金額(清算価値以上である必要があります。

上記①②のうち大きい方の額を返済していくことになります。

  • 原則3か月に1回以上の分割払いの方法による必要があります。
  • 再生計画案は債権者の書面による決議に付し,可決されなければなりません。過半数の数または金額の債権者が反対しなければ,可決されたことになります

給与所得者等再生とは

小規模個人再生手続の対象者のうち,給与またはこれに類する定期的な収入を得る見込みがある人で,その額の変動の幅が小さい人が利用できます。
この手続は小規模個人再生と違って,債権者による計画案の決議がありません。その代わりに最低弁済額について③可処分所得要件が加わり,可処分所得額(自分の収入の合計額から税金や生活費用として必要と認められた政令で定められた費用を控除した残額)の2年分の金額と,負債に応じた最低弁済額,清算価値と比べて,一番多い額を3年間で支払うことになります。

住宅貸付債権に関する特則とは

サラ金等への借金などの他に住宅ローン債務もある人については,小規模個人再生手続,又は,給与所得者等再生手続の申立をする際に,住宅ローンについての特則を希望する旨付け加えることができます(住宅資金特別条項
この制度の利用により,住宅ローンのみ今までどおり支払い続け,他の債務を減額することができます。住宅ローンについての返済総額は他の借金などのように少なくすることはできませんが,自宅を手放さずに済みます。

破産と個人再生,どちらを選べばいい

自己破産と個人再生には,以下のような違いがあります。各々の事情に照らし合わせ,手続の選択を検討するとよいでしょう。

債務の支払

自己破産では,原則として借金などの負債の支払義務が免除されます(免除されない非免責債権があります)。一方,個人再生では負債が減額されるにとどまります。
個人再生は、法律に則って減額された弁済額を原則3年間にわたって支払っていく手続きですので,完済できる見通しが立つだけの継続的な収入を得ている必要があります。また,住宅ローンを除いた債務の総額が5000万円を超える場合には,個人再生をすることができません。

自宅

個人再生では「住宅資金貸付債権に関する特則(住宅資金特別条項)」を利用すれば,住宅ローンを従来どおり返済し続けることで自宅を維持し,住宅ローンを除く債務を減額できます。この制度を利用することにより,自宅を残すことが可能になるので,自宅を失いたくない人は個人再生を選択することになります。
ただし,利用できるかどうか検討すべきことがありますので,弁護士への相談をお勧めします。

財産の処分

自己破産では,一定の手元に残してよいとされている財産(自由財産といいます)を除いては,原則換価(処分)され,税金の支払いや債権者への配当にまわされます。
個人再生手続では,債務者の持っている財産額以上の弁済を要求されることにはなりますが,財産の処分が行われるわけではありませんよって,ローンの支払いが終わっている自動車などを所有していて処分されたくないような場合,解約返戻金のある保険を解約したくないような場合は,個人再生が視野に入るでしょう。
また,小規模な事業者の場合,破産を選択すると,売掛金や事業用の財産などが管財人による換価の対象となり,破産者が個人で営んでいた事業は継続が困難になる可能性が高いです。ほかに生計の手段がなく,現在の事業を続けていきたいような場合も,個人再生選択の必要性が高くなります。

職業の制限

自己破産では開始決定日から復権まで就くことのできない職業があります。個人再生では,手続き期間中就くことのできない仕事はありません。
したがって破産者であることが欠格事由となっている職業に従事している場合は,破産によって退職を余儀なくされることを避けるため,個人再生手続を利用する必要性が高くなります。

免責不許可事由

自己破産手続では,免責不許可事由にあたる事情がある場合には,免責が許可されないことがあります。これに対し,個人再生手続では,破産法に定められた免責不許可事由の存在が当然に再生計画の不認可の理由になるわけではありません。したがって,免責不許可事由がある場合は,自己破産よりも個人再生を選択する方が有用と考えられることがあります。

*ただ,実際には,破産手続においても,免責不許可事由があっても裁量免責が認められることが多く,個人再生手続でも,浪費等がある場合には再生計画の履行可能性の面から考慮されることはあります。

共通点

どちらも裁判所が関与する手続であり,官報に掲載されます。
信用情報機関に事故情報が登録され,一定期間ローンを組めなくなるなどのデメリットが生じます。また,保証人に請求がいくなど,保証人には影響します。
税金・養育費・罰金などは減額・免責できません。

 

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