【個人再生】住宅資金特別条項を利用できる「住宅資金貸付債権」該当性の問題

個人再生手続には,自宅を持ち,住宅ローンを支払中の人が,住宅ローンを特別扱いして返済することにより,自宅を手元に残すことができる制度(住宅資金特別条項)があります。

住宅資金特別条項を定めた再生計画が裁判所によって認可されると,住宅ローンなどの住宅資金貸付債権については当初の約定どおりに(または民事再生法に基づくリスケジュールをして)返済を継続することができ,そのため自宅を処分されずに済みます。そして,住宅資金貸付債権以外の債務については,減額した上で分割払いすればよいという効果が生じます。

ここでいう「住宅資金貸付債権」とは,
住宅の建設もしくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地または借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって,
当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。)の主たる債務者に対する求償債権を担保するための抵当権が住宅に設定されているもの,
をいいます(民事再生法196条3号)。

この条項の「住宅資金貸付債権」(住宅ローン)に当たるのかどうかについて,問題となる例をいくつかみていきます。

住宅ローンの借り換え

住宅ローンの借り換えが行われた場合,新たな貸付金が,過不足なくそのまま従前の住宅ローンの返済に充てられている場合は,従前の住宅ローンが新たな住宅ローンと入れ替わったにすぎませんので,従前の住宅ローンと同様に,新たな住宅ローンも「住宅資金貸付債権」に該当するといえます。

リフォーム費用の貸付

住宅資金貸付債権には,住宅の建設もしくは購入に必要な資金に限られず,「住宅の改良に必要な資金の貸付」も含まれます(民事再生法196条3号)。
そして,「住宅の改良」には,増改築のほかリフォームも含まれます

諸費用ローン

不動産の取得時に,仲介手数料,登記手続費用,各種税金,保険料などの費用等の支払いのために,住宅ローンとは別にローンを組んでいることがあります(いわゆる,「諸費用ローン」)。この諸費用ローンは,住宅ローンよりも金利が高く住宅ローン減税の対象にもならず,住宅金融支援機構の融資対象でもないなどの点から,金融実務上,住宅ローンとは別物と扱われています。したがって,諸費用ローンが直ちに「住宅資金貸付債権」に該当するとはいえません。

しかし,不動産取得時にはこのようなローンを組むことが珍しくないため,諸費用ローンの「住宅資金貸付債権」該当性を一切否定すると,住宅資金貸付債権に関する特則を定めた趣旨(債務者が住宅を手放すことなく経済生活の再生を図ることができるようにする)に添わない事態も生じ得ることになってしまいます。

諸費用ローンは,
①住宅ローンとは別個に諸費用ローンの抵当権が設定される場合
②住宅ローン債権と諸費用ローン債権を合わせて被担保債権とする抵当権が設定される場合
があります。

①については,諸費用ローンについて,その使途が住宅の建設もしくは購入に密接にかかわる資金であることが明確で,諸費用ローンの総額が住宅資金そのものの借入金額と比べてかなり少額であるなどの場合は,住宅資金貸付債権として取り扱うことができることもあるようです。

②は,借り入れた資金のうちの一部が住宅ローンとは別の債権であった場合であり,一般に使用割合により,借入資金の主要部分が住宅購入等の目的に使用されている場合は住宅資金貸付債権該当性を満たすと考えられています。つまり,住宅ローンの中に他の用途に充てた資金が混在していても,その割合が少ない時には,利用可能となる場合があります。

住宅ローンが根抵当権により担保されている場合

「住宅資金貸付債権」は,住宅購入資金等を被担保債権とする「抵当権」が住宅に設定されていることを要件とするものですが,「抵当権」とは「根抵当権」を含むものと解されています。したがって,住宅に設定されている根抵当権の被担保債権が住宅ローン債権のみであれば,住宅資金特別条項を使うことができます。

もっとも,登記簿の記載だけでは,被担保債権が住宅ローン債権のみであるかどうかを確認することはできませんので,被担保債権が住宅ローン債権のみであることを,申立時に資料を提出して疎明する必要があります。

住宅に設定された根抵当権の被担保債権の範囲に,住宅ローンのみならず事業用資金等の借入金が内包されている場合

住宅ローン以外の貸付金は,住宅の購入等に必要な資金としての貸し付けではないので,「住宅資金貸付債権」には当たりません。

ただし,住宅ローン部分が大半を占め,それ以外の部分がごくわずかである場合などは,住宅資金特別条項を定めることが可能な場合があると考えられています。また,住宅資金の貸付とそれ以外の部分の峻別が可能で,被担保債権から住宅資金貸付以外の債権を除外する旨の一種の別除権協定を締結することも考えられます。
事案ごとに個別に検討される部分が大きいようです。

住宅の売買代金,住宅の建築請負代金を被担保債権として抵当権が設定されている場合

「住宅資金貸付債権」は,「貸付けに係る」債権であることが条文上明記されていますが,住宅購入代金建築請負代金長期分割払い契約の場合も,住宅ローン類似の経済的実態がありますので,これに該当するのが相当と考えられています。

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