小規模個人再生と給与所得者等再生

個人再生手続とは,減額した債務を原則3年で返済する計画を立て,裁判所の認可を得ると,その計画に従った返済をすることによって残りの債務が免除される手続のことをいいます。
個人再生手続を利用するためには,「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があることが必要となります。
また,負債総額から担保権の実行により弁済できる金類及び住宅資金貸付債権の額(この債権を担保するため住宅に抵当権が設定されたもの)を除いた金額が5000万円を超えないことも必要です。(民事再生法221条1項)

個人再生手続きには,個人事業者などの「小規模個人再生」と,給与を得ている人の「給与所得者等再生」の2種類があります。
この手続は全く別の対象者を予定しているわけではなく,給与所得者等再生手続の申立が可能な人は,常に小規模個人再生手続の申立が可能です。

では,どちらの手続を選択すべきか,という点から,考慮すべき点はどんなところにあるでしょうか。

開始要件

給与所得者等再生手続は,小規模個人再生の特則と位置付けられていますので,小規模個人再生手続の上記要件にプラスして,「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがあり,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれる」ことも必要となります(民事再生法239条1項)。

債権者の決議

両者の手続で大きく異なる点は,小規模個人再生手続では,債務者(申立人)から提出された再生計画案を裁判所が債権者に送付して,同意するかどうかの決議に付する(民事再生法230条3項)のに対して,給与所得者等再生手続では,再生債権者の決議なしに(意見聴取を行うのみ),裁判所は再生計画を認可できることです(民事再生法240条,241条)。

小規模個人再生では,不同意の債権者(議決権者)が,債権者(議決権者)の総数の半数に満たず,かつ,その議決権の額が議決権の総額の2分の1を超えないという,債権者の消極的同意が必要とされています(民事再生法230条6項)。したがって,過半数(頭数と債権額で)の債権者が反対する危険性があるような場合,たとえば債権者数がもともと少ないため,1~2社の反対で容易に過半数をこえてしまうおそれがあるとか,大口債権者が同意しないおそれがあるなどの場合は,給与所得者等再生を選択する方が安全であるといえるでしょう。

*もっとも,不同意の議決権を行使する債権者はほとんどないともいわれています。

最低弁済額

債権者の決議で再生計画案を否決に導く途のない給与所得者等再生では,債権者の権利保護の観点から,最低弁済額の要件が加重されています。

(1)負債総額に応じた次の金額

100万円未満の場合 負債額全部
100万円以上500万円未満の場合 100万円
500万円以上1,500万円未満の場合 負債総額の5分の1
1,500万円以上3,000万円以下の場合 300万円
3,000万円を超え5,000万円以下の場合 負債総額の10分の1

(2)自分の財産をすべて処分した場合に得られる金額(清算価値
に加え,
(3)可処分所得額(収入の合計額から税金や生活費用として必要と認められた政令で定められた費用を控除した残額)の2年分の金額(民事再生法241条2項7号)
以上であることが要求されます。つまり,(1)(2)(3)のうち最も高い金額以上の弁済をすることになります。
小規模個人再生手続の場合には,(1)と(2)のどちらか高い方の額となります。

  • 可処分所得を算出するには、法令に基づく複雑な計算をしなければならず,場合によっては可処分所得がかなり高額になることがある(扶養家族のいない独身者など)ので,給与所得者であっても,小規模個人再生を選択することが多いという現実があります。
  • 小規模個人再生を選択して再生計画案が否決された後に,改めて給与所得者等再生の申立てを行うことも可能です。

その他

(1)住宅貸付債権に関する特則住宅資金特別条項)は,小規模個人再生でも給与所得者等再生でも,どちらでも利用できます。

(2)過去に破産している場合は,給与所得者等再生手続は利用できない場合があります。
破産免責決定確定の日から7年以内の期間内は,給与所得者等再生の申立てができません(民事再生法239条5号)。また,給与所得者等再生を選択すると,再生計画の認可確定の日から7年の期間内であることが破産の免責不許可事由となっています(破産法252条1項10号ロ)(つまりざっくりいうと,7年は破産申立ができないということになります。)。
(3)手続の移行
給与所得者等再生においては,給与所得者等再生を妨げる事由があることが明らかになった場合に小規模個人再生による手続開始を求める旨の予備的申述(民事再生法239条3項)がなされていることを条件として,給与所得者等再生から小規模個人再生へ手続移行することが認められています(民事再生法239条5項)。
しかし,小規模個人再生については,給与所得者等再生による手続開始を求める旨の予備的申述についての規定がなく,小規模個人再生から給与所得者等再生への移行は認められていないものと解されています。ただし,改めて給与所得者等再生の申立をすることは可能です。