民法改正~定型約款

現代社会においては,大量の取引を迅速かつ安定的に行うために,契約に際して「約款」を用いることが多く行われていますが,これに関する規定が改正前の民法にはありませんでした。
今回の改正により,全く新しい,「定型約款」という,約款に関するルールが民法に定められることになりました。定型約款に関する条文は,民法548条の2~548条の4の3つです。

定型約款の意義

世の中に存在する「約款」すべてが民法の規制の対象となるのではなく,以下のように定義づけられるものを「定型約款」と呼んで,民法に規定を新設しました。

「定型約款」とは・・・

ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって,その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものを,「定型取引」といい,
定型取引」において,契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体を,「定型約款」といいます(民法548条の2第1項)。

* 例えば,鉄道やバスの運送約款,宅配便の運送約款,電気やガスの供給約款,普通預金規定,保険約款,インターネットサイトの利用規約などが,これにあたると考えられます。
他方で,定型的なひな形を利用して契約していても,ひな形どおりの内容で取引するかどうかは最終的には当事者間の交渉によって決まるものといえ,内容が画一的であることが双方にとって合理的といえないので,定型約款にはあたらないと考えられています。

また,定型約款を準備した者を「定型約款準備者」と,定型約款準備者の取引相手を「相手方」と呼んでいます。

定型約款による契約の成立

定型約款を利用して契約を成立させるためには,

当事者間で定型取引を行うことの合意(定型取引合意といいます)がされたこと

に加え,次のいずれかの場合に該当することが必要です。

① 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき

又は,

② 定型約款準備者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨相手方に表示していたとき

この場合には,定型約款に記載された個別の条項の内容について相手方が認識していなくとも,定型約款の個別の条項について合意をしたものとみなされることになります(民法548条の2第1項)。

もっとも,相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項であって,信義則(民法1条第2項)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められる条項については,合意をしなかったものとみなされることになっています(同条第2項)。
そして,信義則違反の判断の際には,定型取引の態様やその実情,さらには取引上の社会通念を考慮すべきとされています。

*例えば,相手方に対して過大な違約罰を定める条項や,定型約款準備者の故意または重過失による損害賠償責任を免責する旨の条項など,条項の内容自体に強い不当性が認められるものや,売買契約において本来の目的商品に加え想定外の別の商品の購入を義務付ける抱き合わせ販売条項など,不当な不意打ち的要素がある条項などは,その条項の合意したものとはみなされません。

内容の表示義務

定型約款準備者は,定型取引合意の,または定型取引合意の相当期間内に,
相手方から請求があった場合には,
遅滞なく相当な方法で,その定型約款の内容を示さなければなりません民法548条の3第1項)。

もっとも,定型約款準備者が,すでに相手方に対し定型約款を記載した書面を交付し,またはその内容を記録したCD,DVDなどの電磁的記録を提供していたときは,請求に応じる必要はありません。

もし,定型取引合意のに表示請求がされていたにもかかわらず,定型約款準備者がこれを拒むと,仮にその後に取引が行われたとしても,定型約款の個別の条項について合意をしたものとはみなさない,とされています(同条第2項)。

定型取引合意のの開示請求を拒んだ場合は,そのことと因果関係のある損害が生じた場合は損害賠償の対象になると考えられています。

定型約款の変更の要件

定型約款は,契約の継続中に,法令の変更等や経済環境の変動等に応じて,内容を変更する必要が生ずることも少なくありません。民法の一般原則によれば内容の変更には相手方の同意が必要となりますが,定型約款を用いる不特定多数を相手方とする取引では,相手方の承諾を売るために多大な時間やコストがかかる場合や,承諾を得ることが現実的に不可能な場合もあります。そこで,一定の要件を満たした場合には,事後的に約款の内容を変更できることとしました。

実体的要件

次の場合には,定型約款準備者が一方的に定型約款を変更することにより契約の内容を変更することが可能となります(民法548条の4第1項)。
 定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき

又は

(利益とならない場合,どちらかという不利益になるような場合でも,)
 変更が契約の目的に反せず,かつ,変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

*変更が合理的かどうかは,変更の必要性変更後の内容の相当性将来の変更があり得る旨の定めの有無その内容などを考慮して判断されます。
約款中に将来の変更があり得る旨の定めは,なければならないということではなく,あればその内容も勘案するという趣旨です。あれば変更が認められやすくなる方向に働くと思いますが,その定めの有無のみではなく,総合的みて合理的かどうかを判断することになります。

手続的要件

定型約款準備者は,定型約款の変更をするときは,以下の手続をとる必要があります(民法548条の4第2項)。

① その効力発生時期を定め

かつ

② 定型約款を変更する旨,及び変更後の定型約款の内容,並びにその効力発生時期を,インターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければなりません。

 

そして,上記の要件に基づく変更については,相手方保護の観点から,効力発生時期が到来するまでに周知をしなければ,その効力を生じないとされています(同条第3項)。

経過措置

定型約款に関する条項に関しては,(施行日<2020年4月1日>までに反対の意思表示をしない限り)施行日に締結された定型取引にかかかる契約についても,改正法が適用されます

 

民法に定型約款に関する条項がおかれたことで,定型約款中の個別の条項の拘束力の有無や,定型約款の変更の可否に関する紛争などについて,適切な解決の枠組みが示され,紛争の未然防止にもつながると期待されています。
当事者間で「約款」と呼ばれているが,改正法の「定型約款」の要件に該当しないものは,基本的には,民法の意思表示や契約に関する一般的な規定が適用されます。

 

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