借地借家法【借家】~概説

適用範囲

借地借家法(借家)が適用されるのは,建物の賃貸借です。一戸建ての建物や,アパート,マンションの部屋の賃貸の場合など。

ただし,一時使用のために建物を賃貸借した場合には,借地借家法は適用されません(借地借家法40条)。

存続期間

民法上の賃貸借の存続期間の上限は50年でしたが(民法604条1項),借地借家法における借家契約の存続期間には最長期間の制限はありません
なお,期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めがない賃貸借とみなされます(借地借家法29条)。

契約の更新と解約

期間の定めがある場合

建物の賃貸借に期間の定めがある場合,期間満了の1年前から6か月前までの間に,相手方に対し,更新をしない旨の通知をしなかったときには,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(ただし,期間については定めがないものとなります)(借地借家法26条1項)。

なお,賃貸人からこの通知をするには,「正当事由」が必要です(借地借家法28条)。
また,賃貸人が正当事由をもって「更新しない」旨の通知をした場合でも,期間が満了した後に賃借人がその建物の使用を継続しているときは,賃貸人が遅滞なく異議を述べないと,従前の契約と同一の条件(ただし,期間については定めがないものとなります)で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条2項)。

期間の定めがない場合

期間の定めがない場合は,解約の申入れをすると契約が終了します。
賃借人から解約を申し入れる場合は「正当事由」は不要で,解約の申入れ日から3か月経過後に賃貸借が終了します(民法617条1項)。
一方,賃貸人から解約を申し入れる場合は,「正当事由」が必要で,解約の申入れ日から6か月経過により賃貸借は終了します(借地借家法27条1項)。

建物賃借権(借家権)の対抗力

民法上,建物の賃借人が,第三者に建物賃借権(借家権)を対抗するためには,建物賃借権の登記が必要ですが,借地借家法では,建物賃借権の登記がなくとも,建物の引渡しがあれば,建物賃借権を第三者に対抗することができるとしています(借地借家法31条)。

  • A所有の甲建物をBに賃貸し,Bが引渡しを受けて居住している場合,その後,Aが甲建物をCに売却しても,Bは,甲建物に賃借権の登記をしていなくても,Cに対して甲建物の賃借権があることを主張できます。
  • 抵当権が設定されている建物を賃借した場合,賃借人が引渡しを受けるよりも前に抵当権の登記がされているため,賃借権は抵当権に劣後します。裁判所の競売手続によって抵当権が実行された場合には,賃借人は買受人に建物を明け渡さなければならなくなります(買受人との間で再度賃貸借契約を締結するなどしない限り)。

家賃の増減額請求権

諸々の事情により借家の家賃の額不相当となった場合は,当事者(賃貸人,賃借人のいずれも)は,将来に向かって家賃の増額または減額を請求することができます(借地借家法32条1項)。

一定の期間,家賃を増額しない旨の特約は有効なので,その期間は増額請求はできません。一方,一定の期間,家賃を減額しない旨の特約は,賃借人に不利となるため,無効です。

増額について協議が整わないとき

  • 賃借人は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,自己が相当と認める額の家賃を支払うことをもって足ります。
  • 増額を正当とする裁判が確定した場合に,支払済みの家賃に不足があれば,不足額に年1割の支払期後利息を付して支払いをする必要があります。

(借地借家法32条2項)

減額について協議が整わないとき

  • 賃貸人は,減額を正当とする裁判が確定するまで,自己が相当と認める家賃の支払いを請求できます。
  • 減額を正当とする裁判が確定した場合は,受取り済みの金額に超過があれば,超過額に年1割の受領時からの利息を付して返還する必要があります。

(借地借家法32条3項)

造作買取請求権

建物の賃貸人の同意を得て取り付けた造作(畳,建具など)がある場合,賃借人は契約の終了時に賃貸人に対して,その造作を時価で買い取ることを請求することができます(借地借家法33条)。この権利を「造作買取請求権」といいます。

造作買取請求権を認めない旨の特約は有効です。

建物賃借権の譲渡・借家の転貸

建物賃借権の譲渡,借家の転貸をする場合

建物の賃借人が建物賃借権を譲渡したり,借家を転貸する場合には,賃貸人の承諾が必要です(民法612条1項)。賃貸人の承諾なく,賃借人が第三者に使用・収益させた場合,賃貸人は賃貸借契約を解除することができます(同条2項)。

*借地権の場合とは異なり,借家権の場合は裁判所の介入はありません。

建物の賃貸借が終了した場合の転貸借

 A→(賃貸借)→B→(転貸借)→C

建物が転貸借されている場合で,建物の賃貸借関係が終了した時の転貸借関係は以下のようになります。

期間の満了または解約申入れによる終了

賃貸借が,期間の満了または解約申入れによって終了した場合,賃貸人(A)は,転借人(C)にその旨を通知しなければ,その終了を転借人(C)に対抗できません(借地借家法34条1項)。
この通知をした場合,通知がされた日から6か月経過後に転貸借が終了します(同条2項)。

建物賃貸借契約の更新拒絶又は解約申入れの際に必要とされる正当事由の有無を判断する際には,転借人の事情も考慮されます(借地借家法28条)

債務不履行による解除

賃貸借が,賃借人(B)の債務不履行(賃料の不払い等)により解除された場合,原則として,賃貸人(A)が転借人(C)に対して建物の明渡しを請求した時に転貸借も終了します(判例)。
*なお,この場合,賃貸人(A)は転借人(C)に対して通知等をして,賃料を代払いする機会を与える必要はないとするのが判例ですが,批判もあります。

合意解除

賃貸借が,賃貸人(A)と賃借人(B)の合意によって解除された場合,原則として賃貸人(A)はこの解除を転借人(C)に対抗できず,転借人(C)の権利は消滅しません=転貸借は終了しません(判例)。

借地上の建物の賃借人の保護

A(地主)→→B(借地権者)(建物の所有者・賃貸人)→→C(借家人)
借地上の建物の賃借人(C)が,借地権の存続期間が満了することを,その1年前までに知らなかったときは,裁判所は,建物の賃借人(C)の請求により,当該建物の賃借人(C)がそのことを知った日から1年を超えない範囲内において,土地の明渡しに相当の期限を許与することができることになっています(借地借家法35条)。
*借地がからんでいるので,この場合は裁判所の介入があります。

居住用建物の賃貸借の承継

「居住」の用に供する建物の賃借人が「相続人なし」に死亡した場合において,その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが,建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは,その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継することになっています(借地借家法36条)。
→居住用建物に賃借人として住んでいた人が相続人なく死亡した場合,そこに同居していた内縁の妻等がその賃借権を承継することになります。

  • この規定は「居住用建物」に限定されています。居住用建物は生活の基盤なので,居住者を守るための規定です。事業用の建物には適用されません。
  • この規定は,賃借人に相続人がいない場合の規定です。賃借人に相続人がいれば,賃借権は相続人が相続します。

ただし,相続人なしに死亡したことを「知った後1月」以内に,建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは,借家権を承継しません(同条但書)。

定期建物賃貸借

借地借家法38条~記事はこちら