遺言執行者とは

遺言執行者とは

遺言執行者とは,遺言の内容を実現するために,遺言者により指定され,又は家庭裁判所により選任された者をいいます。

遺言執行者は必ず必要なのか

遺言の内容を実現するためには遺言執行者が必ず必要というわけではありませんが,遺言執行者でなければできないものもあります。以下の場合は遺言執行者によらなければ執行できない遺言事項として定められています。
子を認知する場合(民法第781条2項、戸籍法第64条)
推定相続人の廃除およびその取消し(民法第893条、894条)
上記①②以外の場合は,遺言執行者を定めなくとも遺言の内容の実現は可能ということになります。

では,遺言執行者がいない場合,どのように手続を進めるのでしょうか。

これは,遺言の内容によりますが,通常は,相続人全員で手続を進めなければならなくなることが多いです。

例えば,遺贈の場合,受遺者と他の相続人が共同で登記手続きをしなければなりません。

*「相続させる」遺言の場合は,当該財産を取得することになった相続人が単独で登記手続をすることができることになっています。

*預金の相続手続の場合は,遺言執行者いないときは,共同相続人全員の実印と印鑑証明書を金融機関から要求されることが多いです。

遺言により財産を取得することになった相続人が単独で手続できないということになると,他の相続人が相続手続に協力してくれなければ,手続がなかなか進まないとか,遺言の内容が実現できないといった事態に陥ってしまいます。

そのため,遺言を作成するのであれば,遺言執行者を指定しておくのが望ましいと考えられるのです。

遺言執行者はどのようにきまるのですか

遺言執行者は,第一次的には遺言者の遺言によって指定されるか,または遺言によって指定の委任を受けた第三者の指定によって決まります(民法1006条)。

上記の指定による遺言執行者がはじめからいない場合や,いたけれども死亡その他の事由で存在しなくなったときは,家庭裁判所が利害関係人の請求によって選任することができます(民法1010条)。

*遺言執行者の指定は必ず遺言によらなければならず,遺言以外の方法で遺言執行者を定めることはできません。

*遺言執行者の人数に制限はありませんので,1人でも数人でもかまいません(1006条)。法人も遺言執行者になることができます。

*遺言執行者に指定された人が遺言者の死亡前に亡くなってしまったり,遺言執行者への就任を拒絶することに備えて,予備的に別の人を遺言執行者に指定しておくこともできます。

*遺言によって遺言執行者の指定の委託を受けた者(受託者)は,相続開始後,遅滞なく遺言執行者を指定し,これを相続人に通知しなければなりません(民法1006条2項)。

遺言執行者は具体的に何をするのですか

遺言執行者への就任を承諾します

遺言執行者は,就職を承諾することによってその任につくことになります(民法1007条1項)。遺言執行者への就職を承諾をするかどうかは自由であり,承諾すべき義務があるわけではありませんが,いったんした承諾ないし拒絶の撤回はできません

*承諾の意思表示の相手方は相続人です(相続人が数人いても,1人に対して行えば足りると解されています)。方式について制限はないのですが,書面によることが適切でしょう。

遺言執行者に就任したことを相続人その他の利害関係人に通知します

遺言執行者への承諾の意思表示とは別に,相続人その他の利害関係人に対して遺言執行者に就任したことを通知しなさいという規定はないのですが,通知を行うことが適切です(もっとも,実務上,就職の承諾の意思表示を兼ねたものとなろうかと思います)。

遺留分を有しない相続人を含め相続人全員に通知を行うことが望ましいです。

*受遺者は遺贈を放棄することもできますので(民法986条1項),その後の遺言執行に大きな影響を与えることから,受遺者にも通知することが望ましいです。

*民法上,遺言の内容を相続人に通知することが規定されていますので(民法1007条2項),就職の通知には遺言書の写しを添付するのがよいでしょう。

*通知の前提として,相続人の調査が必要となります。

相続財産を調査し,管理します

*遺言執行者は善管注意義務を負いますので(民法1012条3項・644条),遺言執行の対象となる財産の存否・現況を直ちに調査して,速やかに適切な管理を行う必要があります。

相続財産目録を作成し,相続人に交付します

相続財産目録を作成し,相続人と包括受遺者に交付します(民法1011条1項)。

遺言内容の執行を行います

預貯金の解約や,売却して分配する財産については換価手続,有価証券等の財産の名義変更手続,不動産の所有権移転登記等,遺言内容を実現するための手続を行います。

相続人と受遺者に完了通知を行います

遺言執行者の任務が終了したら,相続人と受遺者に完了通知を行います(民法1020条・655条)

遺言執行のために必要な費用は誰が負担するのですか

遺言執行を行う際に生じる費用

民法1021条は,「遺言の執行に関する費用は,相続財産の負担とする」と規定していますので,相続財産の中から支弁することができます。

遺言執行者が執行費用を立て替えた場合は,費用償還請求(民法1012条3項・650条)が認められています。

ただし,遺言の執行に要する費用によって遺留分を害することはできませんので(1021条但書),注意が必要です。

遺言執行者の報酬

遺言執行者の報酬は,遺言で定められたときはそれに従い,遺言に定めがなければ家庭裁判所の審判で定めることができます(1018条1項)。

報酬は後払いが基本です(1018条2項・648条2項)。

報酬も遺言執行費用なので,相続財産の負担となります。

 

遺言執行者に関する相続法の改正について

(2019年7月1日施行)

*改正前は,遺言執行者は「相続人の代理人とみなす」(改正前1015条)とされていましたが,この規定は削除されました。

*特定遺贈がされた場合において,遺言執行者があるときは,遺言執行者のみが遺贈義務者となることが明文化されました(民法1012条2項)。