民法改正~多数当事者の債権債務関係

分類の整理(見直し)

改正により,債権者または債務者が複数の場合における債権の分類は,以下のように整理されました。

* 「不可分債務」「不可分債権」については,その目的が性質上不可分であるもののみを対象とし,概念を整理しています。

* 旧法になかった「連帯債権」に関する規定を新設しています(民法432条)。

(1)債務者複数

  • 分割債務」…目的が性質上可分であり,各債務者にその目的が分割される債務
  • 連帯債務」…目的が性質上可分であり,法令の規定等に基づき各債務者のそれぞれが債権者に対し全部の履行をすべき債務
  • 不可分債務」…目的が性質上不可分である債務

(2)債権者複数

  • 分割債権」…目的が性質上可分であり,各債権者にその目的が分割される債権
  • 連帯債権」…目的が性質上可分であり,法令の規定等に基づき各債権者のそれぞれが全部の履行を請求することができる債権
  • 不可分債権」…目的が性質上不可分である債権

連帯債務者の一人に生じた事由の効力

改正前の民法は,連帯債務者の一人に生じた事由について,他の債務者にも影響を及ぼすことを広く認められており,
履行の請求更改相殺免除混同時効の完成
の事由に絶対的効力絶対効)を認めていました。

・絶対効…債務者の一人に生じた事由の効力が,他の債務者にも影響を及ぼすこと
・相対効…債務者の一人に生じた事由の効力が,他の債務者にも影響を及ぼさないこと

改正により,上記のうち,
履行の請求免除時効の完成を絶対的効力事由から外し,相対的効力事由としました(民法441条本文,439条1項,440条)。
ただし,債権者と他の連帯債務者の一人が「別段の意思表示」をしたときは,当該他の連帯債務者に対する効力はその意思に従うとされています(441項但書)。

履行の請求

履行の請求が絶対的効力事由とすると,連帯債務者の1人に対する履行の請求があったとしても,他の連帯債務者は当然には知らず,いつの間にか履行遅滞に陥っていたといった不測の損害を受けることがありました。また,これまでは1人に請求すれば他の債務者に対しても時効の中断の効果が生じることになっていましたが,この規定は連帯債務者間に共同関係が強い場合が多いことから合理的とされてきたものですが,連帯債務者間の関係は様々であり,かならずしも債務者間に共同関係が強い場合ばかりではないという不都合が指摘されていました。

そこで,改正により,請求相対的効力のみを有することとされ,連帯債務者の一人に履行の請求をしても,他の連帯債務者には効力が及ばないことになりました。

免除

改正前の絶対効の立場によると,債権者が一人の債務者に免除をした結果,他の連帯債務者に対して請求することができる額が減少します。たとえば,A・B・CがDに対し900万円の債務を負っており,それぞれの負担部分が3分の1ずつであった場合,DがAに対し債務を免除すると,改正前はその者の負担部分の限度で絶対的効力を生じるとされていたため,Dは,B・Cに600万円を請求できるのみでした。そして,BがDに600万円を支払うと,BはCに300万円を求償できました。

しかし,債権者が連帯債務者の一人に免除を行う場合,債権者の意思は,他の債務者に対する債務には影響を及ぼさないつもりであることが一般的であり,取引の実態に合致しないと不都合が指摘されていました。

そこで,改正法は,免除の効力を相対効とし,ただ,他の連帯債務者は免除があった連帯債務者に求償できることが明記されました(民法445条)。上記の例では,Dは,Aに免除をした後も,B・Cに900万円請求でき,Dに900万円を払ったBは,AとCに300万円ずつ求償できることになります。

時効の完成

時効の完成が絶対的効力をもつと,債権者はすべての連帯債務者に対し時効の完成を阻止する措置を取っておかないと債務が縮減することになりますので,債権者に負担となります。

しかし,そもそも連帯債務は多数の債務者のいずれかに無資力の者がいても他の債務者から全部の弁済を受けることができる点で債権の効力を強化するものであるのに,連帯債務者間の緊密な関係を理由に負担部分を基礎とする絶対的効力を認めることには問題があると指摘されていたことから,時効の完成相対効とされました。

他の連帯債務者は,時効の完成した連帯債務者に求償できることが明記された点は免除と同様です(民法445条)。

先の例では,Aに時効が完成したとしても,B・Cは依然900万円の連帯債務を負い,BがAの時効完成後にDに900万円を支払った場合は,BはAに300万円の求償ができます。

相殺

連帯債務者の一人による相殺が絶対的効力事由とされていることは改正前と変わらないのですが,他の連帯債務者は,反対債権を有する連帯債務者の負担部分の限度で,履行を拒絶することができるものとされています。

改正前は,他の連帯債務者の債権を負担部分を限度として援用できると規定していましたが,他人の債権を相殺に供することまで認めるのは財産管理権に対する過剰な介入となりますので,債権者に債権を有する他の連帯債務者が相殺を援用しない間は,その連帯債務者の負担部分の限度において債務の履行を拒むことができるものとされました。

結局,連帯債務について絶対効が生じる事由は,弁済のほか,相殺更改混同です。

連帯債務者間の求償関係

求償の要件

連帯債務者の1人が弁済した場合の他の連帯債務者に対する求償について,自己の負担部分を超えなくとも,負担部分の割合に応じて求償できることが明文化されました(442条1項)。

事前の通知と求償

事前の通知を怠って弁済等をすると,求償権が制限されます。

つまり,他の連帯債務者があることを知りながら,連帯債務者の1人が共同の免責を得ることを他の連帯債務者にあらかじめ通知しないで弁済等をした場合には,他の連帯債務者は,債権者に対抗することができた事由をもって,通知を怠った連帯債務者に対抗することができると定められています(443条1項前段)。

*事前の通知を要請する趣旨(他の連帯債務者保護)は,履行の請求を受けた場合に限らず自発的に弁済等をする場合にも働くことから,改正前の「請求を受けたこと」は「共同の免責を得ること」へと変更されました。
*事前の通知が必要となるのは,弁済等の行為をする連帯債務者が,他の連帯債務者があることを知っている場合に限られることになりました。

事後の通知と求償

事後の通知を怠ると,他の者の弁済等が有効となります。

つまり,連帯債務者が他の連帯債務者があることを知りながら共同の免責を得たことの通知を怠った場合は,他の連帯債務者は,善意でした弁済等を有効とみなすことができると定められています(443条2項)。
*事後の通知に関して,事後の通知が必要となるのは,弁済等の行為をする連帯債務者が,他の連帯債務者があることを知っている場合に限られることになりました。

資力のない者の負担部分の分担

連帯債務者の中に償還する資力のない者があるときは,その償還をすることができない部分は,求償者及びたの資力ある者の間で,各自の負担部分に応じて分割して負担することになります(444条第1項)。ここは改正前と変わりません。

改正により,これに加え,求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しない場合について,求償者と他の資力のある者の間で等しい割合で分割して負担する旨が追加されました(同条第2項)。

不可分債務

改正法においては,不可分債務について,内容の見直しがされた連帯債務に関する規定が準用されています(民法430条)。

もっとも,目的が不可分であることを踏まえて,連帯債務者の一人との間の混同の規定(440条)は,準用の対象から外しています(不可分債務においては混同相対効)。

連帯債務において混同が絶対効とされたのは,混同のあった者(たとえば債権者を相続した債務者)に対して履行をしたうえでその者に求償するのは迂遠だからです。しかし,不可分債務の場合は債務の目的が不可分であるので,履行する債務と求償の内容が異なり,同一の者に対して履行した上で求償することが必ずしも迂遠で無意味とはいえないため,相対的効力事由とされています。

*不可分債務の例:たとえば,A・B・C3人で共有している建物をDに明け渡す義務や,A・B・C3人で共有している物をEに引き渡す義務など。共同賃借人の賃料債務はこれまで判例(大判大正11年11月24日)で不可分債務とされていましたが,給付の内容が可分だがその債務自体が不可分な利益の対価であるものが不可分債務にあたるかについては今後の解釈に委ねられると考えられています。

 

弁済 請求 更改 免除 相殺 他人の債権での相殺 混同 時効
連帯債務 ×相対効
441
〇438 ×441 〇439Ⅰ 認めないが,負担部分につき拒める(439Ⅱ) 〇440 ×441
不可分債務 ×430,441 〇430,438 ×430,441 〇430,439Ⅰ 認めないが,負担部分につき拒める(430,439Ⅱ) ×430,441 ×430,441

〇:絶対効, ×:相対効

連帯債権

連帯債権」という概念は改正前は条文がありませんでしたが,改正により規定が新設され,その目的が性質上可分なものについて,法令の規定又は当事者の意思表示によって成立するとしています(432条第1項)。

連帯債権者の一人に対してした弁済,及び連帯債権者の一人がした請求絶対効です(同条項)。

このほか,更改免除(433条),相殺(434条),混同(435条)は絶対的効力事由とされ,これ以外の連帯債権者の一人の行為もしくは一人について生じた事由は他の連帯債権者には効力を生じません(相対的効力の原則)(435条の2)。もっとも,別段の意思表示をしたときはその意思に従います。

連帯債権は,時効以外は絶対効。

不可分債権

改正法においては,不可分債権について,内容の見直しがされた連帯債権に関する規定が準用されています(民法428条)。

もっとも,目的が不可分であることを踏まえて,連帯債権者の一人との間の更改免除(433条)と,混同(435条)の規定は,準用の対象から外しています(つまりこれらは相対効)。

不可分債権の場合は債権の目的が不可分であるので,請求する債権と債務者に償還すべき利益の内容が異なり,全体の履行を請求した上で利益を償還することが必ずしも迂遠で無意味とはいえないため,相対的効力事由とされています。

結局,不可分債権において絶対効を有する事由は,弁済請求相殺となります。
弁済 請求 更改 免除 相殺 混同 時効
連帯債権 〇432 〇432 〇更改により得た債務者の利益分は請求不可
433
〇免除により得た債務者の利益分は請求不可
433
〇434 〇435 ×435の2
不可分債権 〇428,432 〇428,432 ×全部請求可,ただし利益を債務者に償還(429) ×全部請求可,ただし利益を債務者に償還(429) 〇428,434 × ×428,435の2

 

😂多数当事者の債権債務関係はややこしいですね・・・
・連帯債務について,従来絶対効だった「請求」「免除」「時効」が相対効になった。
・不可分債務は連帯債務の規定を,不可分債権は連帯債権の規定を準用するが,不可分債権・債務は目的が不可分なため修正あり。
大枠このような感じで覚えるしかないかなと思います💦
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