民法改正~債務不履行による損害賠償請求,契約の解除,危険負担

債務不履行に基づく損害賠償請求,契約の解除,危険負担について,改正のポイントをまとめました。

債務不履行による損害賠償請求

損害賠償義務と免責事由(民法415条1項)

債務者が債務の本旨にしたがった履行しな場合,または履行不能の場合に,債権者は生じた損害の賠償を請求することができますが,債務者に帰責事由がないときは免責されます(民法415条1項)。

* 改正前は,債務者に帰責事由があることは損害賠償請求のための積極要件とされていましたが,改正法では帰責事由がないことが免責事由(抗弁)になりました。

* 旧法では条文上,履行不能の場合にのみ帰責事由がない場合は責任を負わない旨が定められていましたが(改正前民法415条),改正法ではこれまでの判例や一般的な解釈にしたがって,帰責事由の有無は債務不履行履行不能問わないことをはっきりさせました。

帰責事由があるかないかは,「契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らし」判断されます。

改正法413条の2第1項(新設)は,履行遅滞後に履行不能が生じた場合には,債務者の帰責事由の存在が擬制されるとしています。

また,改正法では,契約に基づく債務の履行が原始的に不能(契約成立時に不能)であった場合でも,債務不履行に基づく損害賠償請求が可能であるとされています(412条の2第2項)。
* 改正前の考え方では,原始的不能の契約は無効であるとされていました。契約が無効であるとすると債務不履行となる余地がないので,債務不履行に基づく損害賠償請求もできないことになります。ただ,これでは不都合なので,信義則上,過失によって無効な契約をした当事者は相手方が契約を有効と誤信したことによって被る損害について賠償責任があるとされていました(契約締結上の過失の法理)。したがってこの場合の賠償は信頼利益に限られてしまっていたのです。

履行に代わる損害賠償(民法415条2項)

填補賠償の要件が明確化されました(415条2項)。

改正前は,債務の履行に代わる損害賠償填補賠償について,(認められてはいたものの)民法に特段の規定が置かれていませんでした。

改正法では,規定が新設され,以下の①~③のいずれかにあたるときは,債権者は債務の履行に代わる損害賠償ができると明文化されました。
①債務の履行が不能であるとき
②債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
③契約が解除され,又は債務不履行による解除権が発生したとき

②は履行遅滞時に,解除せずに填補賠償を請求することを認めています。③でも解除権が発生していても未だ解除していない段階で,填補賠償ができることになります。いずれも未だ履行請求権が消滅していない段階で填補賠償の請求ができることになっていますので,履行請求権と填補賠償請求権の双方を有している場合はどちらか選択できることになります。

損賠賠償の範囲(民法416条)

債務不履行により生じた損害のうち,どの範囲まで賠償すべきかという問題です。民法416条は,

  • 通常生ずべき損害(第1項)
  • 特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見すべきであったとき(第2項)

は,損害賠償の請求ができると規定しています。

特別事情に基づく損害について,改正前は「予見し,又は予見することができた」ものという表現でしたが,改正法では「予見すべきであったとき」という表現になりました。
* 改正前であっても,当事者が特別の事情を実際に予見していたかという事実の有無ではなく,当事者がその事情を予見すべきであったか否かという規範的評価がされていましたので,表現が改められたものです。

契約の解除

解除の要件

改正前は,債務不履行による解除は,債務者の帰責性が要件とされていましたが,改正法では,債務者に帰責性がなくとも,解除が可能になりました(541条,542条)。
* 解除は,債務を怠った債務者に制裁を課す制度ではなく,債務の履行を得られない債権者を契約の拘束力から解放するためのものであると考えられています。

ただし,債権者に帰責性がある場合には,解除ができないものとされています(543条)。
* 債務不履行について債権者に帰責事由がある場合にまで解除を認めると,債権者は故意に債務の履行を妨げたうえで,解除により契約の拘束力から免れることが可能になってしまい,信義則の見地から妥当でないからです。

催告解除(民法541条)

解除は,債務不履行があった場合に,相手方が相当の期間を定めて履行を催告し,その期間内に履行がない場合に認められるのが原則です(541条本文)。ただし,不履行が軽微であるときは認められません(同条ただし書)。

これは数量的にわずかな不履行や付随的義務に違反するにすぎない場合など,軽微な債務の不履行は解除原因とはならないというこれまでの判例の考え方を明文化したものです。

軽微性は「契約及び取引上の社会通念に照らして」判断されます。

無催告解除(民法542条)

解除のためには原則催告が必要ですが,以下の場合には催告をすることなく解除することができます(542条1項)。
①債務全部の履行が不能
②債務者が全部の履行を拒絶する意思を明確に表示
③債務の一部の履行が不能,もしくは債務者が履行の一部を拒絶する意思を明確に表示した場合に,残存部分のみでは契約の目的を達成できない
④契約の性質または当事者の意思表示により,特定の日時または一定の期間内に履行しなければ契約の目的が達成できない場合において,その時期を経過
⑤ ①~④のほか,催告をしても履行がされる見込みがないことが明らか
→催告なしに直ちに解除可能

危険負担

【条文】
534条535条→削除
536条
1項当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができる
2項債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができない。この場合において,債務者は,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。

債権者主義を定めた規定の削除

改正前の民法では,危険負担における債務者主義を原則としながら,特定物に関する物権の設定又は移転を目的とする双務契約等について債務者の責めに帰すべき事由によらないで目的物が滅失又は損傷した場合については債権者主義を適用していました。

・危険負担:双務契約において債務の一方が債務者の責めに帰することができない事由により後発的不能となった場合に,反対債務も消滅するか否かの問題
・債務者主義:反対債務も消滅する
・債権者主義:反対債務は存続する

しかしかねてより債権者主義は帰結が不当であるとして批判が強かったことから,改正により,債権者主義を定めた規定は廃止されました。

ただし,売買の目的物の滅失等についての危険の移転に関しては,民法567条に規定が新設され,売主が買主に目的物を引き渡したのちは,以後当事者双方の責めに帰すべき事由によらずに目的物が滅失・損傷した場合に,買主は担保責任(契約不適合責任)の追及(履行の追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除)はできず代金の支払いを拒むことはできないとされています。
* 買主に目的物が引き渡された後に滅失・損傷により履行が不能になった場合も危険負担の債務者主義を形式的に適用すると,買主は代金請求を拒絶できることになってしまいますが,これは公平の見地から見て妥当ではありません。目的物の引き渡しにより,危険も移転したと考えます。

危険負担の効果

改正前の危険負担の考え方では,一方の債務が履行不能により消滅した場合に,他方の債務も消滅する(債務者主義)とされていましたが,改正法では,「履行が拒絶できる」と定めています。

* 改正法によって,契約の解除の要件として債務者の帰責性が不要になりましたので,一方の債務の消滅に双方に帰責事由がない場合に,他方の債務の債務者は契約を解除すれば自身の債務を消滅させることができるので,これとは別に危険負担の規定を置くことは不要とも思われました。
 しかし,危険負担の規定を廃止し,解除の制度しかないということになると,解除の意思表示が何らかの理由で効力を持たない場合など(たとえば,解除権不可分の原則によって解除できない場合(民法544条)や,大災害等で意思表示不到達の場合等)に,債権者が思わぬ不利益を被る怖れが出てきます。
 そこで,改正後も,危険負担の条文は残し,効果を反対給付債務の履行拒絶権に改めました。

* 双方に帰責事由がない場合には,解除により反対債務を消滅させることもできますし,危険負担の規定により解除せずとも履行を拒むことも可能になります。解除権は,権利を行使することができることを知った時から5年間,および権利を行使することができる時から10年間の消滅時効(民法166条1項)に服すると考えられますが,履行拒絶権の期間制限に関する明文の規定は置かれていません。

債権者に帰責事由がある場合(536条2項)

債権者の責めに帰すべき事由によって債務の履行が不能になった場合には,債権者は,債務者の反対給付の履行請求を拒むことはできません。

* 履行の請求を受けた債権者が自らの有する債権が履行不能になったことを主張・立証し,履行拒絶権(536条1項)を行使したのに対して,債務者が債権者の帰責事由を主張・立証すれば,債務者からの履行請求が認められることになります。