民法改正~契約不適合責任

瑕疵担保責任が契約不適合責任に

売買の目的物に不具合(キズや性能不足など)があった場合に買主がどのような救済を求めることができるのかについて,改正前の民法では,契約の目的物が特定物不特定物かで分け,前者については「瑕疵担保責任」(改正前民法570条),後者については「債務不履行責任」(改正前民法415条)の問題として処理をしていました。

改正前は,特定物売買では目的物に瑕疵があっても売主はその物を引き渡せば足り,債務不履行責任は生じない,という考えのもと,しかしこれを貫くと有償契約における等価的均衡を保てないため,特定物の売主に法律上特に認めた責任が「瑕疵担保責任」(改正前民法570条)である(法的責任説)と解されていました。
改正前民法570条によると,売買の目的物に「隠れた瑕疵」があった場合(つまり買主は瑕疵について善意無過失であることが要求されます)に,買主は解除(売買の目的が達成できないときに限る)と損害賠償請求ができる,と定められていました。

しかし,売買の目的物は大量生産され,交換や代替物の給付など履行の追完が可能であることも多く,特定物と不特定物の判別が容易でない場合も多いのが現状です。したがって,特定物と不特定物を判然と区別する法定責任説の考え方は実態に合致せず,合理的でないとの批判がありました。そこで,改正法では,以下のように改められました。

改正法では,対象物が特定物か不特定物かにかかわらず,引き渡された物が契約の内容に適合しない場合には債務は未履行であると考え(契約責任説),この時に負う売主の責任を「契約不適合責任」(債務不履行責任の特則)として,買主が有する救済手段が整理されました。

  • 改正前民法では「瑕疵」という用語を用いていましたが,改正法では,「契約の内容に適合しない」との用語を用いています。もっとも,旧法下でも判例は「瑕疵」の内容を「契約の内容に適合しないこと」と解していましたので,判断基準に実質的な変更はないといわれています。
  • 改正前民法の瑕疵担保責任は,その対象が「隠れた」ものとされていました(つまり契約時に買主が善意無過失であることが要求されていました)が,改正後の契約不適合責任では,隠れたものである必要はなく,買主が発見できなかったかどうかにかかわらず,売主に対して責任を追及できることになりました。
    * 理論上は買主が善意無過失でなくても売主に対して契約不適合責任を問えることになりましたが,買主が不具合について悪意・有過失の場合は,当該不具合を織り込んで売買代金が決定されている(契約内容に含まれている)と判断される可能性があります。

買主の取り得る手段

改正前の瑕疵担保責任では,目的物に瑕疵があったときに買主が請求できるのは損害賠償と,契約の目的を達成することができない場合の解除2つでしたが,改正民法の契約不適合責任では,新たに追完請求代金減額請求が認められることになり,次のように4つの方策を取り得るようになりました。

  1. 追完請求(民法562条第1項)
  2. 代金減額請求(民法563条第1項)
  3. 損害賠償請求(民法564条)*債務不履行の一般規定によります。
  4. 解除(民法564条)*債務不履行の一般規定によります。

* 条文の規定の仕方としては,取り得る手段が単純に4つ並んでいるのではなく,損害賠償と解除については564条で確認的に行使を妨げないことが規定されています。

追完請求(民法562条)

引き渡された目的物が,種類品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものである場合には,買主は,売主に対し,目的物の修補代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求できることになりました(同条1項本文)。

複数の追完方法が可能な場合,一次的には,買主が,どのような方法で追完をすべきかを選択して請求することができますが,買主に不相当な負担を課すものでないときは,売主は買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることもできます(同条1項ただし書)。

不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,追完請求はできません(同条2項)

代金減額請求(民法563条)

改正前は,損害賠償請求が実質的な代金減額として機能していました。改正法では損害賠償請求帰責事由が必要とされましたので,帰責事由がない場合に代金減額請求の実益があることになります。つまり,代金減額請求には売主の帰責性は要件とされません。

代金減額の請求は,
【原則】催告が必要(同条1項)
①買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,
②その期間内に履行の追完がないときに,
→不適合の程度に応じて代金の減額請求をすることができます。

【例外】催告不要な場合(同条2項)
①履行の追完が不能
②売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示
③契約の性質または当事者の意思表示により,特定の日時または一定の期間内に履行しなければ契約の目的が達成できない場合において,その時期を経過
④ ①~③のほか,催告をしても追完を受ける見込みがないことが明らか
→催告なしに直ちに減額請求可能

減額される代金額の算定は,引き渡された目的物の価値と,契約内容に適合していたならば目的物が有していたであろう価値とを比較し,その割合を代金額に乗じて算定することが想定されています。またこの価値の比較時(基準時)は契約時とするのが相当です。

不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,代金減額請求はできません(同条3項)

買主が代金減額請求権を行使すると,代金の減額と引き換えに,実際に引き渡された物が契約の内容に適合したものとみなすことになりますので,代金減額請求権を行使した場合は売主には債務の不履行(契約の不適合)はなかったことになり,これと両立しない損害賠償請求や解除はできないことになります。

損害賠償請求(民法564条)

損害賠償請求が一般規定に委ねられたことにより,売主の責任は無過失責任から過失責任売主の帰責事由が必要になりました(415条1項ただし書)。

損害賠償請求の範囲については,改正前の法定責任説からは信頼利益に限られていましたが,改正後は契約責任とされたため,履行利益にも及びうることになります(416条)。

信頼利益…契約が有効であると信じたために発生した実費等の損害
履行利益…契約が履行されていれば得られたであろう利益(転売利益等)

解除(民法564条)

解除については,債務不履行責任による解除が改正により帰責事由不要となりましたので,結局,帰責事由不要で解除できるという点は改正前と異なりません。

改正前民法では,契約の目的を達成できない時のみ催告不要で解除できることになっていましたが,改正法では,契約不適合の場合の解除も解除の一般規定によることとされたため,解除のためには催告が必要となり,不履行が契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときには解除が制限されることになりました(541条)。

また,代金減額請求と同じように,一定の場合は無催告で解除ができることになっています(542条1項)。
①債務全部の履行が不能
②売主が履行全部を拒絶する意思を明確に表示
③債務の一部の履行が不能,もしくは売主が履行の一部を拒絶する意思を明確に表示した場合に,残存部分のみでは契約の目的を達成できない
④契約の性質または当事者の意思表示により,特定の日時または一定の期間内に履行しなければ契約の目的が達成できない場合において,その時期を経過
⑤ ①~④のほか,催告をしても履行がされる見込みがないことが明らか
→催告なしに直ちに解除可能

期間の制限

目的物の種類又は品質に関する契約内容の不適合が判明した場合,買主はその不適合を知った時から1年以内その旨を売主に通知しなければ,売主に上記請求をすることはできなくなります(民法566条1項本文)。

改正前は,瑕疵を知ってから1年以内に権利行使をしなければならないと規定されており,判例では「少なくとも売主に対し,具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の算定根拠を示すなどして,売主の担保責任を問う意思を明確に告げることが必要」とされていましたので,「通知」のみで足りるとした改正法は,買主の負担をかなり軽減したものといえます。
ただ,ここでいう「通知」は,単に契約との不適合がある旨を抽象的に伝えるのみでは足りず,細部にわたるまでの必要はないものの,不適合の内容を売主が把握することが可能な程度に,不適合の種類・範囲を伝える必要があるものと考えられています。

売主が不適合について悪意・重過失の場合は,1年間の期間制限はありません(同条ただし書)。ただしその場合でも別途消滅時効の適用は受けますので注意が必要です。

引き渡された目的物の数量や,移転した権利が契約内容に適合しない場合には,本条の適用はありません。判別が比較的容易なため,期間制限を設けませんでした。