民法改正~法定利率

改正の概要

改正前の民法では,民事法定利率は年5%(旧民法404条),商事法定利率は年6%と定められていましたが,市場金利を大きく上回っており経済の実情と合わないと批判がされてきました。

* 法定利率が市中金利を大きく上回っていると,債務者が支払う遅延損害金の額が不当に多額になり,将来の逸失利益に係る損害賠償額を算定する際の中間利息控除の場面では不当に賠償額が抑えられる結果となってしまいます。

そこで,次のような改正が行われました。

  1. 施行時の法定利率を年3%に引下げる(民法404条2項)
  2. 今後は,一定の指標を基準として,3年ごとに法定利率が自動的に見直される変動制を導入する(民法404条3項)
  3. 商事法定利率の廃止(改正前商法514条の削除)

そして,上記1,2を踏まえ,以下の場合にいつの時点の法定利率を用いるのかを定めました。

  • 利息の算定(民法404条1項)
    利息が生じた最初の時点
  • 遅延損害金の算定(民法419条)
    →債務者が遅滞の責任を負った最初の時点
  • 中間利息の控除額の算定(民法417条の2・同722条1項)
    損害賠償請求権が生じた時点

 

* 改正法の施行日は,2020年4月1日です。

変動制の具体的内容

改正では,常に変動する市中金利等との整合性を図るため,法定利率を固定制から変動制に切り替えました。もっとも,法定利率が市中金利と連動して常時変動すると,債権管理等との事務処理負担が過度に大きくなってしまいます。そのため,改正法は,変動の見直しは3年ごとに行うこととし,その際に基準割合の変動が1%を超えなければ法定利率は変動せず変動するときは1%刻みとする緩やかな変動制を導入しました。

  • 3年を「1期」として,「1期」ごとに変動します。
  • 日本銀行が公表している貸出約定平均金利の過去5年間における短期貸付の平均金利の合計を60で除して計算した割合(0.1%未満は切り捨て)を「基準割合」とします(民法404条5項)。

* 過去5年間=各期の初日の属する年の6年前の年の1月から前前年の12月までの各月(例えば,2026年4月1日が期の初日である場合には,2020年1月~2024年12月の各月)

  • 直近変動期の基準割合と当期の基準割合との差(1%未満は切捨て)に相当する割合を,直近変動期における法定利率に加算し,または減算します(民法404条4項)。

たとえば,
Ⅰ期:2023年4月~2026年3月
Ⅱ期:2026年4月~2029年3月
Ⅲ期:2029年4月~2032年3月

直近変動期(法定利率が変動した期)がⅠ期(2023年4月~2026年3月)であったとして,この期の法定利率が3%基準割合が0.7%だったとします。
Ⅱ期:2026年4月から3年間の期の基準割合は,2020年1月~2024年12月までの60か月の短期貸付の平均利率の合計を60で割った数字(0.1%未満の端数は切り捨て)をその期の「基準割合」として法務大臣が告示します。この期の基準割合が例えば1.4%であった場合は,0.7%との差が+0.7%であり差が1%未満なので,この期に法定利率の変動は生じないということになります。その翌期(Ⅲ期:2029年4月からの3年間)の基準割合が例えば0.2%だった場合,0.7%との差は-0.5%であり(前期の1.4%との差ではなく,直前変動期との差をみるので0.7%との差ということになります),差は1%未満なので,翌期(Ⅲ期)も法定利率の変動はない(3%のまま)ということになります。もし,Ⅲ期の基準割合が例えば1.9%になっていた場合は,0.7%との差は+1.2%なので,Ⅲ期の法定利率は1%上がり,4%になるということになります。

法定利率を用いる場合の基準時

一旦法定利率が定まれば,その後法定利率が変動しても連動はしないことになります。では,いつの時点の法定利率を用いるのでしょうか。
(1)利息の算定(民法404条1項)→利息が生じた最初の時点
  • 貸金債権の場合は,原則として,利息はその貸付金を借主が受けった日以後に生じますので(民法589条2項)その日(金銭の交付を受けた時
    ↑契約に利息を払う旨の合意があり,利率の定めがない場合。
  • 不当利得返還請求権の場合は,受益者が悪意となった時点から利息が生じますので(民法704条)その時点
(2)遅延損害金の算定(民法419条)→債務者が遅滞の責任を負った最初の時点
  • 期限の定めのある債務の場合は,支払期限を過ぎた時点支払いをすべき日の翌日
  • 期限の定めのない債務は,債権者が履行の請求をしたときから遅滞に陥るので(民法412条3項),請求時履行の請求があった日の翌日
  • 不法行為の損害賠償請求権は,一般に不法行為時に債務者は直ちに遅滞に陥ると解されているので,不法行為時
  • 契約の解除の場合に付すべき利息については,金銭の受領時からの利息を付すため(民545条2項),受領時
(3)中間利息の控除額の算定(民法417条の2・同722条1項)→損害賠償請求権が生じた時点
  • 不法行為→不法行為時
  • 債務不履行→不履行の時点
安全配慮義務違反の契約責任による損害賠償請求権の場合,(期限の定めのない債務なので)遅延損害金は請求時の法定利率,中間利息控除のための法定利率は義務違反の時点,と用いる法定利率が異なることがあり得ることになります。

*「中間利息の控除」とは?

交通事故などの不法行為等による損害賠償は,将来の逸失利益(将来取得するはずであった利益)を含めて事故時から請求が可能です。
中間利息控除」とは,不法行為等による損害賠償において被害者の逸失利益を算定するにあたり,将来得たであろう収入から運用益を控除することをいいます。

改正前は,中間利息控除において控除される利息につきいかなる利率を用いるかについては規定がありませんでしたが,判例は,法定利率(改正前は年5%)を用いるべきとし(最判平成17年6月14日),以降実務上同判例の考え方が広く用いられてきました。

改正により,中間利息控除に法定利率(変動制)を用いることが明文化(民法417条の2,同法722条1項)され,また,損害賠償請求権が生じた時点(すなわち交通事故時)の法定利率が適用されることも明確化されました。

逸失利益としての損害賠償金は,将来の利益現在受け取るので,運用益を差し引く必要があります。年5%で運用できるものとして価値を現在に割り戻されてしまうと(年5%ではなかなか運用できないのに)得られる金額が少なくなってしまいます。年3%の利率を用いる方が賠償金として得られる額は増えることになります。
一方で,遅延損害金の利率は法定利率が5%→3%に引き下げられたことにより,得られる金額は減少します。
今回の改正は,損害賠償額に大きく影響することになります