相続させたくない相続人がいる場合

Q 自分の死亡によって自分の財産を相続させたくない相続人がいる場合,どうしたらよいでしょうか。

A 当該相続人(配偶者・子・父母の場合)を廃除するか,当該相続人が欠格事由に当たらない限り,相続する財産をゼロにすることは難しいです。ただし,その相続人が兄弟姉妹の場合は,下記の遺贈等の方法で一切相続させないことができます。

遺贈・死因贈与・遺言による相続分の指定

自分の財産をある特定の相続人に相続させたくない場合,まず,自分の全財産を他の者へ遺贈(遺言による贈与)ないし死因贈与(贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与契約)したり,遺言により相続させたくない相続人の相続分をゼロと指定する,などの方法が考えられます。

ただし,相続人が遺留分侵害額請求権を有している場合は,その者の遺留分を侵害する部分についてまで,相続させないことはできないことになります。

遺留分を侵害された者は,遺贈や贈与を受けた者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができます。これを遺留分侵害額請求権といいます。遺留分を有する相続人は,被相続人の配偶者・子・直系尊属のみであり,兄弟姉妹は含まれません。

 

相続人の廃除

廃除とは,

①被相続人に対する虐待

②被相続人に対する重大な侮辱

③推定相続人の著しい非行

がある場合に,被相続人の意思により推定相続人の相続権を剥奪するという制度です(民法892条)。

廃除の対象となる相続人は,遺留分を有する相続人に限られます。→遺留分を有しない相続人(兄弟姉妹)に相続させたくない場合は,上記(遺贈等)の方法を取れば足りるからです。

方法としては,生前に家庭裁判所に廃除の請求(審判の申立)をする(民法892条),もしくは,遺言で推定相続人を廃除する意思を示しておくこともできます(民法893条)。

遺言書に相続人廃除の意思表示が記載された場合でも,当然に排除されるものではなく,遺言執行者から家庭裁判所に対して相続人廃除の申立を行い,これを認める審判が確定する必要があります。なお,遺言書に遺言執行者の記載がなければ,まず家庭裁判所に遺言執行者選任の申立をする必要があります。

例えば遺言書に「長男〇〇には一切相続させない」と記載した場合,それが,長男○○の相続分をゼロとする相続分の指定をしたものなのか,長男の廃除まで求めているものなのかはっきりしません。廃除したい場合は,はっきり廃除の旨を明記すべきです。そのうえで,具体的にどのような廃除事由が存在するかを明確にし,これを根拠づける資料を添えて遺言執行者にしっかり託しておく必要があるでしょう。

廃除の審判の確定によって,相続人はそのときから相続権を失います(審判確定前に相続が開始した場合や,遺言による廃除の場合は,廃除の審判の効果は相続時に遡ります)。ただし,相続欠格とは異なって,廃除された者も受遺者にはなれます。

また,廃除は代襲原因なので,廃除された者の相続人に相続権が移ります。したがって,廃除した者及びその家族にも一切相続させないという目的は達成できません。

相続欠格

法には5つの欠格事由が定められています(民法891条)。

①故意に被相続人または先順位・同順位の相続人を殺害,または殺害しようとしたために刑に処せられた

②被相続人の殺害されたことを知って,これを告発・告訴しなかった者(ただし,その者に是非の識別ができないとき,殺害者が自己の配偶者・直系血族であったときを除く

③詐欺または強迫によって,被相続人が相続に関する遺言をし,撤回し,取り消し,または変更することを妨げた

④詐欺または強迫によって,被相続人に相続に関する遺言をさせ,撤回させ,取り消させ,または変更させた

⑤相続に関する被相続人の遺言書偽造し,変造し,破棄し,または隠匿した者 該当する行為を故意に行うだけではなく,不当な利益を目的として行う場合にのみ,欠格事由になります。

相続欠格事由に該当すると,法律上当然に相続権を失います。被相続人がその者に遺贈(遺言による贈与)をしていても,受遺者(遺言で財産を贈られる者)にもなれません(民法965条)。

欠格の効果は一身専属的なので,欠格者の相続人が代襲相続することができます。

補足

生きている間に,自分の財産を他の者に「贈与」(生前贈与)しておくという方法がありますが,要件にあてはまると遺留分侵害の基礎とされます(相続人に対する生前贈与は特別受益にあたるもので原則10年以内,第三者に対する贈与は原則1年以内)。

被相続人の側でとれる方策とは異なりますが,相続が発生した後の相続人間の遺産分割において,他の相続人が寄与分を主張したり,相続させたくなかった当該相続人の特別受益を主張するなどのことによって,当該相続人の相続分を減らすことができる場合があります。

寄与分を定めた場合,寄与分に対しては遺留分侵害額請求の対象とすることはできません。

ただし,贈与や遺贈を受けた相続人が,遺留分侵害額請求を受けた場合,減殺額を減らすために寄与分の主張をすることはできません。

まとめ

特定の相続人に「相続させたくない」という希望がある場合,財産をすべて他の者に取得させるという方法によっても,その相続人に遺留分がある場合は,遺留分に相当する金額に関しては,一切与えないことは難しいということになります。

廃除の方法は,そもそも廃除は相続権の剥奪という重大な効果を生じるものなので,家庭裁判所での審判を得る必要があり,ハードルがかなり高い手続といえます。

相続欠格は,被相続人がどうこうするというものではなく,相続人の側に欠格事由があると,当然に相続権を失うという制度です。