定期借家(定期建物賃貸借)ー更新のない借家契約-

定期借家(定期建物賃貸借)とは

定期借家(定期建物賃貸借)とは,契約で定めた期間の満了により,更新されることなく終了する建物賃貸借契約です。この契約は書面で行う必要があります(借地借家法38条1項)。

 

普通借家(普通建物賃貸借)の場合,賃貸人は正当事由がなければ契約の更新拒絶又は解約の申入れができず(法28条),このため,実際上更新拒絶や解約申入れが認められることは容易ではありません。
定期借家(定期建物賃貸借)は,賃貸借期間が満了すると,確定的に賃貸借が終了するという賃貸人にとって利点のある契約です。

定期借家(定期建物賃貸借)契約を締結するためには

必ず契約書を作成しなければならず,その契約書面には,定期借家である旨が記載されている必要があります。
また,この契約書とは別に賃貸人は,あらかじめ,賃借しようとする者に対し,「この建物賃貸借は更新がなく,期間の満了により終了する」旨を記載した書面(事前説明書)を交付して説明する必要があります(法38条2項)。

この事前説明がなかったときは,更新しない特約は無効となります(同条3項)。つまり,その契約は普通建物賃貸借となります

契約通り期間の満了により契約を終了させるためには

期間満了の1年前から6か月前までの間通知期間)に,建物の賃借人に対し,期間の満了により賃貸借契約が終了する旨を通知する必要があります(同条4項本文)。

ただし,賃貸人が上記通知期間経過後にこの通知をした場合は,通知の日から6か月を経過した日に賃貸借は終了することになります(同条項ただし書)。

*たとえば,契約期間が2021年12月31日だとすると,本来終了通知は同年6月30日までにしなければなりませんが,うっかりこれを過ぎて通知するのがたとえば9月20日になってしまったとしても,通知が借家人に到達してから6か月の経過で(2022年3月20日で)契約は終了することになります。

*終了通知が必要なのは,賃貸期間が1年以上の場合に限りますので,賃貸期間が1年未満の場合はこの通知は不要です。

継続して建物に住みたい場合は?

もし継続して同じ物件に住みたい場合は再契約が必要となります(契約の更新ではありません)。ただし,再契約は賃貸人の了承がなければ結べません。

賃貸人との合意で再契約が可能なのであれば,契約の更新とはどこが違うのでしょうか。この違いは第三者との関係で現れてきます。

  • 建物に抵当権が設定されている場合,当初の契約後に抵当権を設定した抵当権者は,賃貸借契約の更新がなされている限り,その賃借権の対抗を受けます。しかし,再契約の場合は,当初の契約の期間満了により法律関係はいったん終わっていますので,再契約後の賃借権は,既に設定されている抵当権との関係では劣後することになります。
  • たとえば賃借人の債権者が敷金や保証金の返還請求権を差し押さえた場合は,当初契約の終了時に権利が顕在化しますので,賃貸人が清算後の敷金・保証金を返還すべき相手は差押え債権者ということになります。
  • 連帯保証人についても,当初の契約の連帯保証人の責任の範囲は,再契約にまで及ばないと考えられています。

中途解約:借家人の解約権

居住用の建物賃貸借で,床面積が200平方メートル未満の建物の賃貸借である場合(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合は,当該一部分の床面積が200平方メートル未満の場合)において,転勤,療養,親族の介護その他のやむを得ない事情により,建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難になったときは,建物の賃借人は,当該賃貸借の解約の申入れをすることができます(同条5項)。この場合,賃貸借は解約の申入れ日から1カ月の経過によって終了します。

賃料の改定に関する特約

定期借家契約では,当事者間において賃料の改定に係る特約をした場合は,法32条を適用しないものと定められています(法38条7項)。

これはどういうことかというと,普通借家契約では,法32条により,種々の事情により賃料が不相当となったときは,契約条件にかかわらず,当事者の一方は賃料の増減(変更)を請求できると規定されています。しかもこの場合,「一定期間は賃料を上げない」という賃借人に有利な特約はそのまま有効ですが,それ以外の特約については,賃借人に不利な特約は無効ですので,現在の賃料が不相当だと考えれば相手方に対し賃料の改定を求めることができます。

この規定を定期借家では適用しないこととされていますので,定期借家契約で賃料改定特約が定められた場合(たとえば,「賃料は〇年ごとに〇パーセントずつ増額する」など),当事者はこの規定を無視することはできず,この規定に従うことになっているのです。

このことにより,賃貸人にとっては,契約期間中の賃料収益を確実に予測できることになり,これが不動産の流動化・証券化に大きく役立つことになります。

このように定期借家では,全契約期間中の賃料を当事者の特約によって定めると当事者はそれに拘束されることになりますので,契約が長期間に及ぶ場合には,将来の賃料相場と乖離する可能性も視野に入れ,よくよく慎重に吟味する必要があります。

定期借家のメリット?

普通借家契約では,契約期間が決まっていても,賃借人が希望する限り更新が可能で,引き続き住み続けることができます。賃貸人はめったなことでは更新の拒絶や解約の申入れはできません(つまり,大家さんは貸したくなくても貸し続けなければならない)。
定期借家では,契約に定めた期間で確実に契約が終了しますので,一定期間だけ貸したい賃貸人(大家さん)にとっては,その需要にこたえることのできる大きなメリットのある契約ということができます。

賃借人側からすると,定期借家は期間限定で貸すことになるので,賃料が安く設定されていたり,敷金・礼金等がないことが多く,賃借人にとっては借りやすい条件となっているようです。また,通常の賃貸物件だけでなく,転勤中に自宅を貸す場合のように分譲マンションや一戸建てなどの良質な物件を借りられる可能性があり,物件選択の幅が広がるというメリットもあります。

 

ただ,実際上,定期借家はあまり活用されていない現状があるようです。それは,上記にみてきたとおり,契約時に事前説明書を交付しての説明が必要であったり,契約終了前には通知期間内に終了通知をしなければならないなど,賃貸人や不動産業者の側の負担が大きいからではないかと思われます。

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