民事執行法改正~債務者の財産開示手続,第三者からの情報取得手続

債務者の財産状況の調査に関して,実効性を高めるための民事執行法の改正が行われ,令和2年4月1日から施行されています。

昨今,子どもの養育費の不払が社会問題化しています。調停や審判で決まっても相手が任意に払ってこない場合は強制執行をしなければなりませんが,相手の財産や勤務先がわからないと結局は取りはぐれる事態にもなりかねませんでした。今回の改正によって,より相手の財産調査がしやすくなったといえます。

債務者の財産開示手続の拡充

債務者の財産状況の調査に関しては,平成15年の民事執行法の改正によって,一定の債務名義を有する債権者の申立てによって,執行裁判所が債務者を呼び出し,債務者に自らの財産について陳述させるという財産開示手続が導入されましたが,十分な実効性を有せずその機能が十分に発揮されていないとの指摘がなされていました。

そこで,以下のように改正が行われました。

申立に必要とされる債務名義の種類の拡大

改正前は,債務名義を有する債権者であっても,有する債務名義が仮執行宣言付判決仮執行宣言付支払督促または執行証書等であるときは,申立をすることができる債権者から除外されていました。

今回の改正により,財産開示手続の申立権者の範囲が拡大され,上記の除外規定は撤廃され,すべての執行力のある金銭債権にかかる債務名義を有する債権者による財産開示手続の申立てが可能になりました(民事執行法197条1項柱書)。

手続違背に対する罰則の強化

改正前は,財産開示手続において,開示義務者(債務者等)が,正当な理由なく,呼出しを受けた財産開示手続に出頭せず,又は財産開示期日において宣誓を拒んだ場合や,宣誓した開示義務者が,正当な理由なく陳述を拒み,又は虚偽の陳述をした場合には,これらの手続違反をした者を30万円以下の過料に処することとしていました(旧民事執行法206条1項)。
これに対し,今回の改正では,この罰則を,6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることとして,罰則を強化しました(民事執行法213条1項5号,6号)。

第三者からの情報取得手続の新設

今回の改正では,債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から取得する情報取得手続が新設されました。
→債務名義を有する債権者が,裁判所に申立てをすることにより,債務者の有する不動産給与預貯金等に係る情報を保有する第三者から,その保有する情報の提供を受けることができる制度です。

申立人

申立人は,執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者等です。

金銭債権の種類は,不動産及び預貯金等の情報にかかる申立てについては制限がありませんが,給与に関する情報を対象とする申立については,申立ができる者は【養育費や婚姻費用等の支払い請求権】又は【生命又は身体の侵害による損害賠償請求権】を内容とする債務名義を有する債権者に限られます。

*和解調書や執行証書を債務名義とする場合に,「和解金」や「解決金」といった名目になっている場合は,認められないことがあるので注意が必要です。

執行力のある債務名義が必要なので,債務名義の正本には原則として執行文が必要です(家事審判や調停調書については不要)。ただし,執行文が不要とされる債務名義についても,承継執行文や条件成就執行文が必要な場合があります。家事審判の場合は確定証明書が必要です。

執行開始要件を備えていることも必要となります(債務名義の正本又は謄本が債務者に送達されていること等)。

第三者

債務者の情報を保有する第三者は,以下の者に限定されています。
・不動産→登記所
・給与→市町村,厚生年金の実施期間(日本年金機構,国家公務員共済組合,国家公務員共済組合連合会,地方公務員共済組合,全国市町村職員共済組合連合会,日本私立学校復興・共済事業団)
・預貯金→銀行,信用金庫,労働金庫,農業協同組合,漁業協同組合等

不動産を対象とする情報取得手続(法205条)は,情報提供義務者である登記所における不動産に関するシステムの構築や整備のため,法律公布の日(令和元年5月17日)から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日までの間は適用されないものとされています(改正附則5条)。

要件

以下の申立要件を満たす必要があります。

  • 6か月内に実施された配当等において,申立人が全額の弁済を受けられなかったこと(法197条1項1号)
  • 申立人が,債権者として通常行うべき調査を行い,その結果判明した財産に対して強制執行等を実施しても,債権の完全な満足を得られないこと(法197条1項2号)
  • 不動産及び給与を情報取得の対象とする手続の場合は,財産取得手続の申立て前3年以内に財産開示期日が実施されたこと(法205条2項,206条2項,規則187条3項)*預貯金に関しては不要です(処分容易性に鑑み,密行性に配慮)

不服申立

申立人(債権者)は,第三者からの情報取得手続の申立てを却下する裁判に対して,全ての手続(不動産給与預貯金等に係る情報取得の申立)において,執行抗告をすることができます(法205条4項,206条2項,207条3項)。

債務者は,第三者からの情報取得手続の申立を認容する裁判(情報提供命令)に対して,不動産及び給与に係る情報取得の申立においては執行抗告をすることができますが(法205条4項,206条2項),預貯金等に係る情報取得の申立においては執行抗告をすることはできません

不動産及び給与に係る情報提供の申立を認容する決定は,確定しなければその効力を生じません(法205条5項,206条2項)。したがって,認容決定の送達を受けた債務者が執行抗告をすると,それが退けられるまで,執行裁判所は,情報提供を命じる義務を負いません。
預貯金等は処分が容易で流動性の高い財産であるため,執行抗告を認めてあらかじめ認容する裁判を債務者に送達してしまうと,執行抗告で争うなどしている間に財産を処分されてしまう可能性があるので,認容の裁判は送達されず執行抗告も認められていません

第三者は,いずれの申立においても執行抗告をすることはできないと解されています。

執行抗告以外にも,債権者の債務名義や執行文付与について,請求異議の訴え(法35条1項)や執行文付与に対する異議の訴え(法34条1項)とともに,強制執行停止の裁判を申し立てる方法があります(法36条1項)。
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