寄託の諾成契約化
改正前は要物契約とされていた寄託契約ですが,改正により諾成契約とされました(民法657条)。
寄託者の解除権
寄託が諾成契約になると,契約成立後,寄託物を受寄者に保管させる必要がなくなった場合でも寄託者は契約に拘束されることになってしまう不都合が生じるので,受寄者が寄託物を受け取る前は,寄託者はいつでも契約を解除することができるとするとともに,受寄者がこの解除により損害を受けた場合には,寄託者に対し損害賠償請求ができることとしました(民法657条の2第1項)。
*そもそも寄託者は,返還時期の定めがあってもいつでも寄託物の返還を請求することができますので(民法662条第1項),受取前であっても寄託の必要がなくなったのであれば,寄託者はいつでも契約を解除して目的物の受け渡しを不要とするのが合理的との考えに基づきます。
受寄者の解除権
無報酬の受寄者:書面による寄託を除き,寄託物を受け取るまでは,契約の解除をすることができます(民法657条の2第2項)。
書面による寄託における無報酬の受寄者,報酬を得る受寄者:
① 寄託物を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず,寄託者が寄託物を引き渡さない場合において,
② 相当の期間を定めてその引渡しの催告をし,その期間内に引渡しがないときは,
→ 契約の解除をすることができます(民法657条の2第3項)
*寄託者が寄託物を引き渡さず解除もしない場合に,受寄者がいつまでも保管場所を確保し続けなければならない等の負担を負うことを避けるため,受寄者を契約の拘束から解放する趣旨です。
寄託当事者の権利義務に関する改正
寄託者による期限前返還請求と損害賠償責任
寄託者は,寄託物につきいつでも(返還時期を定めた場合であっても)返還請求できる点は,改正後も変更はありません(民法662条第1項)。
寄託者が返還時期の前に返還を請求したことによって受寄者に損害が生じたときは,受寄者は当該損害の賠償を寄託者に請求できるとする規定が追加されました(同条第2項)。
受寄者が寄託物を第三者に保管させる場合(再寄託)
改正前は,寄託者の承諾を得た場合に限って再寄託(寄託物を第三者に保管させること)ができるとされていましたが,再寄託をするやむを得ない事由がある場合や寄託者の承諾を得ることが事実上困難な事情がある場合でも再寄託できないという不都合が生じます。
そこで,改正により,
- 寄託者の承諾を得た場合 に加えて
- やむを得ない事由がある場合 にも,
再寄託が可能とされました(民法658条第2項)。
寄託物について権利を主張する第三者がある場合
改正前は,寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対する訴えの提起等をした場合に,受寄者は寄託者に通知する義務があることを規定していました。しかし,それ以上に,その後受寄者がどうすべきかについての規定はありませんでした。
改正法では,寄託者に対する通知は寄託者に対処の機会を与えるためのものであることから,通知義務の定めとともに,寄託者が知っている場合には通知する必要はない旨を明文化しました(民法660条第1項)。
そして,第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても,受寄者は,寄託者の指図がない限り,寄託者に対し寄託物を返還する必要があり(民法660条第2項本文),ただし,
- 受寄者が上記の通知をした場合,または,寄託者が知っていたため通知の必要がない場合で,
- 寄託物をその第三者に引き渡すべきことを命ずる確定判決等があったときに,その第三者に寄託物を引き渡したときは,
寄託者に返還する必要はなくなるものと定めました(同条同項ただし書)。
受寄者が寄託者に返還すべき場合に寄託者に返還したことによって第三者に損害が生じても,損害賠償責任は負わないこととされています(民法660条第3項)。
寄託物の一部滅失または損傷があった場合の寄託者の損害賠償請求権,受寄者の費用償還請求権についての権利行使期間
寄託物の一部滅失等による寄託者の損害賠償請求及び受寄者の費用の償還請求は,一部滅失等が受寄者の保管中に生じたか否かについて争いが生じやすいため,権利行使期間を合理的期間内に制限する必要があります。
そこで,寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならないものとしました(民法664条の2第1項)。
* 寄託物の一部滅失の場合に限っているのは,全部滅失の場合は返還自体が不能であり,受寄者の保管中に滅失したか否かについての争いが生じにくいためです。
また,寄託物の一部滅失等の損害賠償請求権についても消滅時効の適用を受けますが,寄託者が返還を受けた時から1年を経過するまでは,時効の完成を猶予するものとしています(664条の2第2項)。
* 寄託目的物に一部滅失または損傷が生じても,寄託期間が長期にわたるような場合に寄託者がその事実を知ることができず,返還を受けて損害賠償請求しようとしたら請求権自体が時効消滅していた,というような不都合を避けるためです。
* 受寄者の費用償還請求については,受寄者において支出を把握することが可能であり,寄託物の返還前においても行使可能なため,時効の完成は猶予されません。
混合寄託(民法665条の2)
混合寄託とは,受寄者が複数の寄託者から同一の種類・品質の物の保管を委託された場合に,これらを混合して保管し,のちに寄託を受けた物と同じ数量を返還するものです。
* たとえば,酒類や石油などの寄託で用いられ,同一の種類・品質のものを混和させて保管することで倉庫の要領を節約し,管理コスト・保管料の低減につながるものとされています。
実務上は広く行われていましたが,民法上に規定がなかったため,改正により新設されました。
- 複数の寄託者の寄託物の種類及び品質が同一
- 各寄託者の承諾
各寄託者は,受寄者に対し,その寄託した物と同じ数量の物の返還を請求することができます。
また,混合して保管されている寄託物の一部が滅失した場合には,各寄託者は受寄者に対して,総寄託物に対する自己の寄託した物の割合に応じた数量の返還を請求することができるにとどまり,この場合に損害賠償請求は妨げられません(同条第3項)。
* 通常の寄託とは,物を保管する点では共通していますが,寄託された物そのものをそのまま返還する義務を負わない点で異なります。
* 消費寄託とは,寄託された物をそのまま返還する義務を負わない点では共通していますが,消費寄託とは異なり,寄託物の所有権を受寄者は取得しません。
消費寄託(民法666条)
受奇者が契約により寄託物を消費することができる場合を「消費寄託」と言います。受奇者は寄託者に対して同一の種類・品質・数量のものを返還する義務を負うこととなります。
改正前の民法では,消費貸借の規定を準用することとしていましたが(改正前民法666条1項),それだと寄託の性質のそぐわない部分が出てくるため改正法は原則として寄託の規定を適用することとしました。
* 消費貸借では,貸主は返還の時期を定めたときは返還の催告はできませんが,消費寄託では,返還時期を定めたときでも,寄託者はいつでも寄託物の返還を請求できる(民法662条第1項)とするのが合理的です。
* 消費貸借は借主の側に目的物を利用する利益がある契約ですが,消費寄託は寄託者の側に目的物を保管してもらうという利益がある契約であるという点で通常の寄託と同様の性質を有しており,両者は基本的な構造が異なります。
ただ,消費寄託は目的物の所有権が受寄者に移転し,受寄者は寄託物を自由に処分することができるという契約であり,この点では消費貸借と類似することから,目的物の処分権が移転することに伴う規定(民法666条2項・590条(寄託者の担保責任),592条(受寄者の価額償還))に限り,消費貸借の規定が準用されることとなりました。
なお,預貯金契約については,さらに特則をもうけて,返還時期の定めの有無にかかわらず,金融機関がいつでも預貯金を返還できることされています(民法666条3項・591条第2項,3項)。
* 預貯金契約は,金融機関が運用して利益を得ることを前提とした,受寄者にとっても利益のある契約であり,他の消費寄託とは異なっているため,消費貸借と同様の定めとしたものです(* 寄託の規定をそのまま適用すると,やむを得ない事情がない限り,期限前返還はできないことになってしまいます(663条第2項))。金融機関は弁済期到来前でも預金者に対する貸付債権と相殺するなどの処理ができます。