保証に関する改正については,以下の点についての概要を理解しておけばひとまず足りると思います。いずれも重要なので,押さえておく必要があると思います。
Ⅰ 根保証契約の見直し(包括根保証禁止の拡大)
Ⅱ 公証人による保証意思確認の手続の新設
Ⅲ 保証人に対する情報提供義務の新設
順に説明します。
包括根保証禁止の拡大
「根保証契約」とは,一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約をいいます。
たとえば,アパートを賃借する際に,その賃料などをまとめて保証する場合や,会社の社長が,会社と取引先との債務をまとめて保証する場合などです。
根保証契約を締結する場合,契約時には主債務の金額がはっきりしていないため,想定外の膨大な負担を負うことになって保証人が破産する例などもあり,かねてより問題視されていました。
根保証契約については,平成16年の改正(平成17年4月1日施行)によって一定の保証人保護の規律ができていたことが記憶にある方もおられるかと思います。
平成16年の民法改正では,
- 保証債務一般について,保証契約は,契約書などの書面でしなければその効力を生じない(つまり無効になる)ものとされました(民法446条2項)。
そして,貸金等の債務に関して個人が行う根保証契約について,個人保証人保護のため,包括根保証を禁止する以下の内容の特則が置かれました。
- 極度額の定めのない根保証契約は無効
- 元本確定期日(保証期間の制限):元本確定期日の定めがないときは契約から3年を経過した日に確定(5年以上を定めた場合は無効)
*つまり,保証人は,契約で定められた5年以内の期間(定めが無いときは3年間)に発生した債務のみ保証するものとされました。 - 元本確定事由:
①主たる債務者・保証人の財産についての強制執行・担保権の実行
②主たる債務者・保証人の破産
③主たる債務者・保証人の死亡
*これらの事由が発生するとそこで元本が確定されますので,その後に発生する債務については保証の対象外となるということです。
今回の改正では,包括根保証禁止の対象を,一部,貸金等債務以外の根保証にも拡大しました。
<貸金等債務以外の根保証の例>としては,不動産の賃借人が賃貸借契約に基づいて負担する債務の一切を個人が保証する保証契約,会社の債務について代表者との間で取引債務や損害賠償債務等を保証する保証契約,介護・医療等の施設への入居者の負う各種債務を保証する保証契約などがあげられます。
【改正の内容】
- 極度額の定めの義務付けについては,すべての根保証契約に適用されることになりました(民法465条の2)。
- 保証期間の制限(元本確定期日)については,貸金等の債務に限定するという現状を維持しています(民法465条の3)。
*この規定が貸金等債務以外にも適用されるとすると,たとえば賃貸借において,最長でも5年で保証人が存在しなくなるといった事態が生じてしまうおそれがあるため,貸金等以外に拡大しませんでした。 - 元本確定事由については,
①保証人の財産に対する強制執行・担保権の実行
②保証人の破産
③主たる債務者・保証人の死亡
が元本確定事由となることは貸金等の債務に限定されずすべての根保証契約に適用されることになりましたが(民法465条の4第1項),
①主たる債務者の財産に対する強制執行・担保権の実行があったこと
②主たる債務者の破産
が元本確定事由とされるのは貸金等の債務に限定されたまま(現状維持)とされました(同条第2項)。
*例えば賃貸借契約は,主債務者である賃借人の破産等によっては終了しないため,賃貸人としては保証契約の存在を前提として賃貸借契約を締結したにもかかわらず,以後は保証がないまま貸し続けなければならないことになり不都合だからです。
表にすると以下のようになります。
<根保証契約> | 貸金等債務 | 貸金等債務以外 |
極度額の定め | 必要 | 必要 |
元本確定期日 (保証期間) |
原則3年 (最長5年) |
制限なし |
元本確定事由 (保証の終了事由) |
①主たる債務者・保証人の財産についての強制執行・担保権の実行 ②主たる債務者・保証人の破産 ③主たる債務者・保証人の死亡 |
①保証人の財産についての強制執行・担保権の実行 ②保証人の破産 ③主たる債務者・保証人の死亡 |
公証人による保証意思確認の手続の新設
法人や個人事業主が事業用の融資を受ける場合に,その事業に関与していない親戚や友人などの第三者が安易に保証人になってしまい,多額の債務を負うことになるという事態が依然として生じています。
そこで,個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合には,公証人による保証意思の確認を経なければならないこととされました(民法465条の6)。この意思確認の手続を経ずに保証契約を締結しても,その契約は無効となります。
なお,この意思確認の手続きは,主債務者の事業と関係の深い次の者については不要とされています(民法465条の9)。
- 主債務者が法人の場合:その法人の理事,取締役,執行役や,議決権の過半数を有する株主等
- 主債務者が個人の場合:主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や,主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者
*保証意思の確認(保証意思宣明公正証書)の作成は,保証契約締結の日前1か月以内に行われる必要があります。
*代理人による嘱託は不可。必ず保証人本人に確認しなければなりません。
*手数料は1万1000円とされています。
保証人に対する情報提供義務の新設
主債務の履行状況に関する情報提供義務(民法458条の2)
主債務者の委託を受けて保証人になった場合には,保証人は,債権者に対して,主債務についての支払の状況等に関する情報の提供を求めることができます。
*この規定は法人が保証人である場合にも適用されます。
主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務(民法458条の3)
主債務者が期限の利益を喪失し,債務全額について弁済期が到来してしまうと,遅延損害金の額が大きく膨らみ,早期にその支払いをしておかないと,保証人としても多額の支払いを求められることになりかねません。
そのため,保証人が個人である場合には,主債務者が期限の利益を喪失した場合,債権者は,
- 主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内にその旨を保証人に通知しなければならない
- 上記1の通知をしなかったときは,保証人に対し,期限の利益を喪失したときから通知を現にするまでに生じた遅延損害金を請求することができない
ものとされました。
通知は,発信するだけでは足りず,2か月以内に通知が保証人に到達することが必要です。
個人に対して事業のために負担する債務についての保証を委託する際の情報提供義務(民法465条の10)
事業のために負担する債務について保証人になることを個人に依頼する場合には,主債務者は,委託を受ける者に対し,以下の情報を提供しなければなりません(民法465条の10第1項)。
- 財産及び収支の状況
- 主債務以外の債務の有無,金額や履行状況
- 主債務の担保として他に提供している(提供しようとしている)ものがある場合はその内容
また,①主債務者がこの義務に違反して,上記事項に関する情報提供せず又は誤った情報を提供し,②そのために保証人候補者がその事項について誤認し,③誤認によって保証契約をし,かつ,④債権者が上記①を知りえた場合には,保証人は保証契約の取消しができることになりました(同条第2項)。
* この規定は,事業用融資に限らず,売買代金やテナント料など融資以外の債務を保証する場合にも適用されます。