配偶者居住権は有用か?

配偶者居住権は,実際,どうなのでしょうか?設定したほうがいいのでしょうか?

メリット

配偶者居住権は,被相続人が亡くなった後も配偶者が自宅に住み続けられることを法的に保障し,その一方で不動産以外の財産も受け取りやすくなる=預貯金の相続分を増やし,配偶者の生活資金を確保するためには有用です。

また,偶者居住権は配偶者他界時に消滅し,2次相続で相続税の評価がされないという特徴があるため,相続税対策として有効だということです(*詳しくは税理士にご相談ください)。

デメリット

もっとも,建物所有者からすると,配偶者居住権の存続期間が(別に定めない限り)終身のため,配偶者が亡くなるまで,その不動産は自由に使えない・処分もできないということになります。もちろん,配偶者居住権付の所有権として,全く負担のない権利よりは低く評価して取得をしているのですが,人生100年時代と言われる時代のなかで,配偶者が思ったよりずっと長生きする場合もありますので,建物所有者が思っていたよりずっと長期にわたり自宅不動産を負担付きのまま所有し続けることになる可能性もあるのです。逆に,配偶者が思ったより早く亡くなる可能性もありますが,人の寿命はわからないし自由にもならない,あらかじめ算定もできないということです。

また,配偶者居住権は,譲渡できません(民法1032条2項)。たとえば,自宅に住み続けることが難しくなり,ホーム等に入居することになっても,入居費用を捻出するために配偶者居住権を売却するということはできません

ただし,所有者の承諾があれば,第三者に貸すなどして収益を得ることはできます(同条3項)。しかし,第三者に貸す,というのは現実的でないこともあるでしょう。

また,配偶者居住権を放棄する代わりに建物所有者から対価を得るという方法もありますが,対価について揉めることもあるかもしれません。

配偶者居住権は放棄することができますが,これが建物所有者に対する贈与とみなされて所有者に贈与税がかかったり,対価を受け取ると配偶者に譲渡取得税がかかったりする可能性があります(*詳しくは税理士にご相談ください)。

どのような場合に有用か?

では,どのような場合に配偶者居住権の設定は有用なのでしょうか?

1 相続税対策として利用する(*詳しくは税理士にご相談ください)
2 子のいない夫婦で,先祖代々続く土地・建物を,夫の親族に相続させたいような場合

夫の死後妻が相続すると,妻の死後,夫婦に子供がいないため,妻のきょうだいが相続することになる可能性が高いです。不動産の所有権を夫のきょうだいに取得させ,妻には配偶者居住権を設定する遺言を書いておくというのはひとつの方法かと思われます。

3 自宅以外の相続財産が少ない場合で,相続人間が不仲で,配偶者に住む家を確保しておきたいような場合

この場合は,被相続人が遺贈ないし生前贈与により建物所有権を配偶者に取得させ,持ち戻し免除の意思表示をしておけば,自宅不動産を遺産分割の対象から外すことができます。そうすれば配偶者は,自宅以外の遺産も相続することができます。(また,婚姻期間20年以上の夫婦の場合は持戻免除の意思が推定されることになっています。)→別記事(特別受益とは)参照

このとき,配偶者居住権の設定によって遺産分割を解決すると,未来にどのようなことが起こるかわからない中,大きなリスクを抱えることになるように思います。

不測の事態に備えるひとつの方策として

遺産分割で配偶者居住権を設定する場合,「配偶者が存続期間満了前に配偶者居住権を放棄するときに,これによって利益を受ける建物の所有者が,配偶者に対して残存期間分の価値相当額の金銭を支払う旨を,あらかじめ合意しておく」という方法があると思います。

あらかじめ合意しておけば,放棄時の争いを防ぐこともできますし,配偶者には放棄して対価を売るという選択肢が現実的なものになります。

また,配偶者の判断能力が低下し,成年後見人がついているような場合には,配偶者はすでに施設に入居しているのに,配偶者居住権がそのまま存続している,というような事態もあると思います。もし,成年後見人がこれを放棄するとすれば,裁判所の許可が必要になるでしょう。ですが,居住用不動産を売却する場合とは異なって,対価を得るわけでもないのにただ放棄するだけでは被後見人(配偶者)にメリットがないので,許可を得ることは難しいように思います。放棄に対価が発生すれば,許可を得やすくなり,対価を得てそのお金を被後見人(配偶者)のために使うことができ,建物所有者は配偶者居住権の負担のない権利を得ることができるようになります。

ただ,存続期間満了前に配偶者が配偶者居住権を放棄する場合に対価が必要になってくるのは,遺産分割時の配偶者居住権の評価額のうち残存期間分の価値を多く支払っていることになってしまうからです。したがって,存続期間が終身で,放棄時に算定時の平均余命より長生きしている場合は,対価は発生しないことになると思います。

 

いずれにしても始まったばかりの制度で,まだ設定例も多くない思いますので,今後の運用を見ていきたいと思います。

 

 

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