債権執行(債権差押命令)手続②~第三債務者が取立てに応じず供託したら?(配当等の手続)

債権差押命令の正本が第三債務者に送達されて差押えの効力が生じ、かつ、債務者に送達されて1週間が経過して取立権が発生すると、債権者は差押えた債権を取立てることができます(民事執行法155条1項)。

第三債務者は、取立てに応じるか、供託をすることによって、免責されます。

権利供託と義務供託

金銭債権について裁判所から差押命令の送達を受けた場合,第三債務者は,差し押さえられた金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができます(民事執行法第156条第1項)。
これを「権利供託」といいます。債権差押命令が1個のとき、または複数あっても競合しないときに供託する場合をいいます。取立てに応じて弁済するか、供託するかは第三債務者の判断で決められます。

一方、同一の債権について重複して差押命令の送達を受けた場合(差押えが競合した場合)には,第三債務者はその金銭債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければなりません(同条第2項)。この場合は、第三債務者は供託の方法によらなければ免責を得ることができません。これを「義務供託」といいます。

*たとえば100万円の金銭債権について、まず60万円の差押えを受けると、残りは40万円となりますが、この40万円を超えて新たな差押えがされ100万円では足りない場合を「差押えの競合」といいます。この場合は100万円全額を供託しなければなりません。

第三債務者は、供託したときは、その事情を裁判所に届け出なければならないことになっています(同条第3項)。具体的には、「事情届」を記載して、裁判所に提出します。事情届は債権差押命令の送達とともに同封されていますので、その用紙を使用すれば大丈夫です。

事情届には、事件の表示、差押債権者、債務者の氏名または名称、供託の事由および供託をした金額を記載して、供託書正本を添付します(民執規138条1項・2項)。

事情届は、供託する都度提出する必要があります。

第三債務者が供託した場合には、配当等の手続が実施されることになります。

配当等の手続

配当等の手続には、狭義の「配当手続」と、「弁済金交付手続」があります。

配当を受けるべき債権者が複数おり、各債権者の債権と執行費用の全部を、供託金でまかなうことができない場合には、配当手続が実施されます(民執166条2項・84条1項)。

◆債権者が1人、または債権者が複数いても各債権者の債権と執行費用の全部を供託金で弁済可能なときは、弁済金交付手続が実施されます(民執166条2項・84条2項)。

上記の配当手続と弁済金交付手続をあわせて、配当等の手続といいます。

期日の指定と通知

◆配当手続を実施するときは、裁判所は
配当期日を指定し、配当を受けるべき債権者および債務者に配当期日呼出状を送達して期日に呼び出します(116条2項・85条3項)。
*債権者には、配当期日呼出状の送達に代えて期日請書の提出を促されることが多いです。

◆弁済金交付手続を実施するときは、裁判所は
弁済金交付日を定め、債権者および債務者に弁済金交付日通知書を送付して通知します(民執規145条・59条3項)。
*債権者には、弁済金交付日通知書の送付に代えて期日請書の提出を促されることが多いです。

債権計算書の提出

配当手続、弁済金交付手続のいずれでも、配当期日呼出状の送達・弁済金交付日通知書の送付と同時に、債権者に対して、債権計算書の提出をするよう催告されます(民執規145条・60条)。
債権計算書というのは、債権の元本、配当期日等までの利息、損害金および執行費用の額を記載するもので、これらの額とともに計算根拠も明示して記載します。*もっとも、債権計算書を提出しなくても配当等を受ける権利を失うことはありません。

裁判所は、各債権者から提出された債権計算書の内容を検討して、配当期日ないし弁済金交付日の準備をします。*債権計算書が提出されなかった場合は、裁判所は、第三債務者が提出した事情届や供託書正本、およびそれらから判明する各事件記録の内容から債権の現存額を判断することになります。

配当表の作成・期日における手続

配当期日または弁済金交付日の当日には、配当表または弁済金交付計算書が作成されます(民執166条2項・84条2項・85条5項)。通常は裁判所の方であらかじめ作成してあり、当日にそれを示す形がとられています。

配当表または弁済金交付計算書には、配当財団、債権者、債権の元本、利息、損害金および配当等の額が記載されます(民執166条2項・85条2項)。

配当意義と配当の留保

配当期日において、配当表に記載された各債権者の債権または配当の額に不服がある債権者・債務者は、配当異議の申し出をすることができます(民執166条2項・89条1項)。

配当異議の申し出は、配当期日に出頭してしなければなりません。

配当異議の申出があると,申出があった部分については,配当が留保されることになります。

配当期日から1週間以内に以下の訴えを提起し,かつ訴えを起こしたことの証明書等を執行裁判所に提出しなければ,配当異議の申出が取り下げられたものとみなされ(法166条2項・90条6項),留保されていた部分についても配当表のとおりに配当が実施されます。

  • 債権者が配当異議の申し出をした場合:配当異議の訴え(166条2項・90条1項)
  • 債務者が、執行力のある債務名義の正本を有しない債権者に対し配当異議の申し出をした場合:配当異議の訴え(166条2項・90条1項)
  • 債務者が、執行力のある債務名義の正本を有する債権者に対し配当異議の申し出をした場合:請求異議の訴えor民事訴訟法117条1項訴え(定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴え)

配当金等の受領

裁判所は、配当異議の申し出のない部分について、配当期日に配当を実施します(民執166条2項・89条2項)。

債権者が配当金の支払いを受けるには、配当金等の支払請求書に、配当金等の受領をすることができる資格を証明する文書を添付して裁判所に提出します。

裁判所は、供託金の支払委託書を供託所に送付し、

債権者には、受領書を引き換えに配当等に関する証明書を交付します。

債権者は、供託所でこの証明書を添付して供託金の払渡し請求をすることによって、現実に配当金等を受領することになります。供託金払渡請求書には実印を押印し、印鑑証明書を添付する必要があります。