判決を得た(和解した・調停成立した・審判がでた・公正証書を作成したetc)にもかかわらず、相手方(債務者)から支払いを受けられないとき、相手の給料や預金を差し押さえて、押さえた債権から債権額を回収する方法があります。
離婚や養育費請求の場合で、当事者の方が(弁護士を頼まずに)ご自身で調停をされたうえ、調停調書(あるいは審判)どおりの養育費を相手が払ってくれない場合に、ご自身で給料等の差押え手続までされるという、強者(?!)もおられます。
もし、弁護士を頼まずに自分でやってみようと思っておられる方がいましたら、以下の記事を参考に、裁判所のHP等も参照しながら、トライしてみてください。
*普通は難しいかと思います。ご依頼は随時受け付けております。
債権差押命令申立手続とは
債務名義(公的機関が債務の存在を確認した文書のことで、判決正本や、調停調書正本、公正証書正本、支払督促などのことをいいます。)を有しているのに支払いをしてもらえない場合に、裁判所に申立をして債務者の給料や預金等から強制的に取立てをすることを債権差押手続といいます。
債務者:債権差押を申し立てられる人(請求される相手方・債務を負っている人)
第三債務者:債務者に給料や預金等を支払う立場にある会社や金融機関
債権差押命令の申立
申立人は、申立書を管轄の裁判所に提出します。
必要書類
- 債権差押命令申立書
- 執行力ある債務名義の正本
判決,和解調書,公正証書等に執行文が付されたもの。執行文は、債務名義の正本を発行をした裁判所に「執行文付与申請書」を提出して、判決等の最後につけてもらいます。
ただし,仮執行宣言付支払督促,少額訴訟判決,家事審判書,家事調停調書(養育費・婚姻費用等の扶養義務に基づくものや遺産分割,財産分与等を請求するとき)等,例外的に執行文が不要のものもあります。
*家事審判書が債務名義である場合には執行文は不要ですが、確定証明書が必要です。確定証明書は裁判所に「確定証明申請書」を提出し、証明書を発行してもらいます。
- 債務名義の送達証明書
債務名義の正本又は謄本が債務者に送達されたことの証明書です。裁判所に「送達証明申請書」を提出し、送達証明書を発行してもらいます。
- 法人の資格証明書(当事者が法人の場合)
債権者,債務者,第三債務者が会社や銀行などの法人の場合,登記事項証明書又は代表者事項証明書が必要です。法務局で取得します。
- 住民票写・戸籍の附票・戸籍謄本・商業登記事項証明書等
債権者又は債務者の住所,氏名が債務名義に記載された住所・氏名と異なっている場合(引っ越したり,旧姓に戻った場合等)は,債務名義に記載された住所,氏名と現在の住所,氏名のつながりを明らかにするために必要になります。
- その他
更正決定正本や承継執行文等の書類が必要になる場合があります。
申立てに要する費用
- 収入印紙(債務者1名、第三債務者1名、債務名義1通の場合は4000円)
- 予納郵便切手(裁判所に確認してください)
管轄裁判所
申立てをする裁判所は、債務者の住所地(債務者が法人の場合は本店所在地)を管轄する地方裁判所(支部を含む)です。
第三債務者に対する陳述催告の申立
債権者は、第三債務者に差押えにかかる債権の内容について陳述を催告するよう求めることができます。これを、第三債務者に対する陳述催告の申立といい、債権差押命令の申立とともに行います。陳述催告の申立は、債権者が差し押さえた債権の有無や内容(種類・額等)等を知り、差押えの実効性や取立訴訟をするかどうか等の判断や予想が立てられるようにするためのものです。この催告がなされると、第三債務者は、債権差押命令送達の日から2週間以内に陳述書を作成して裁判所に提出しなければなりません。
申立後の流れ
差押命令の送達
- 裁判所が申立に理由があると認めると差押命令が発せられ、差押命令正本が第三債務者と債務者に送達されます。
- 差押えの効力は、債権差押命令の正本が第三債務者に送達されたときに生じます。
- 送達が完了した場合は、第三債務者及び債務者に対する送達日を記載した送達通知書が債権者へ郵送されます。*不送達になったときは、不送達になった旨が通知されます。関連記事はこちら~債権執行(債権差押命令)手続③~転付命令とは何?/差押命令が送達できなかったときは?
- 陳述催告の申立をした場合は、第三債務者から陳述書が2通裁判所に提出されますので、その内の1通が裁判所から債権者に送付されます。
差押債権の取立て
- 債権差押命令が債務者に送達されてから1週間(ただし,給料差押えの場合については,養育費などを請求する場合を除いて4週間)を経過すると、債権者は第三債務者から債権の取立てをすることができます。*債務者に対する送達日は送達通知書に記載されます。
- 取立ては,裁判所から送達通知書を受領し、取立権が発生していることを確認してから行います。
- 取立てを行うには、債権者が第三債務者と直接連絡をとり、取立方法を打ち合わせます(取立方法について特段の定めはありません。また、取立てには裁判所は関与しません。)。具体的には、差押命令正本及びを送達通知書第三債務者に提示するなどし、振込又は送金を依頼するなどの方法で取立てます。
- 給料差押えの場合、原則として相手方の給料の4分の1(月給で44万円を超える場合には,33万円を除いた金額)を差し押さえることができます。
- 養育費等の場合は、特則があります。差押えは,通常,支払日が過ぎても支払われない分(未払分)についてのみ行うことができます。しかし,養育費や婚姻費用の分担金など,夫婦・親子その他の親族関係から生ずる扶養に関する権利で,定期的に支払時期が来るものについては,未払分に限らず,将来支払われる予定の,まだ支払日が来ていない分(将来分)についても差押えをすることができます。また,将来分について差し押さえることができる財産は,義務者の給料や家賃収入などの継続的に支払われる金銭で,その支払時期が養育費などの支払日よりも後に来るものが該当し,原則として給料などの2分の1に相当する部分までを差し押さえることができます。
- 第三債務者は、債務者に対する債務額以上の支払義務を負うものではないため、取立てに要する費用(たとえば振込手数料)は債権者が負担します。
取立訴訟
- 第三債務者が債権者の通常の取り立てに応じない場合、債権者は第三債務者を被告として、直接自己へ(債権者の競合がないとき)または供託(債権者の競合があるとき)を求める訴えを提起することができます。これを取立訴訟といいます。
- 差押えにかかる債権の存否や額について、第三債務者と債権者、あるいは第三債務者と債務者との間で争いがあるときも、取立訴訟で解決する方法があります。
第三債務者が供託したとき
- 第三債務者が供託をしたときは、執行裁判所が、債権者に対して、供託された金銭を配当することになります(民事執行法166条1項1号)。従ってこの場合は、債権者が直接取立てることはできません。
- 配当等の実施については、不動産の強制競売の規定が準用されることになります(同条2項)。
*関連記事はこちら~債権執行(債権差押命令)手続②~配当等の手続
取立届・取下書の提出
■取立(完了)届の提出
- 第三債務者から債権を取り立てたときは,その都度(取り立てた額にかかわらず),取立届を裁判所に提出します。
- 差押債権目録記載の債権を全額取り立てたときは、取立完了届を提出します。
■取下書の提出
差押えの必要がなくなったとき、すなわち
- 第三債務者の陳述書に差押えにかかる債権がない旨の記載があり,債権者がそのことを争わないとき
- 手続の中で実現可能な取立ては終了したが取立額が差押債権目録記載の金額に達しなかったとき
- 弁済があったり,話し合いの成立などで途中で取立てをやめるとき
上記の場合は,取下書を提出します。
なお,少しでも取立金がある場合は,取下書の末尾に「既に取り立てた分を除く」と記載します。
*取下書は3通(債務者・第三債務者複数の場合はその数+1通)と債務者・第三債務者の数分の84円切手を裁判所に提出します。
■事件終了時
取立完了届又は取下書の提出により事件は終了します。
残債権があれば債務名義の還付を求めることができますので、できる限り取立完了届又は取下書と同時に、債務名義の還付申請書を提出します。
*債務名義の還付申請書 (兼請書)1通と返信用封筒(簡易書留分の切手を添付)を裁判所に提出します。
【参考】
横浜地裁提出書類一覧(債権執行)
横浜地裁予納郵便切手一覧表(債権執行)