親と同居し面倒をみていますが,親が亡くなった後,親名義のこの家は自分が相続できますか?

親と一緒に住んで,親の面倒を見ています。親は,「面倒を見てくれているので,この家と土地は,自分が亡くなったらお前にやる。」と言ってくれているのですが,親が亡くなった後,本当に私のものになるのか,不安です。

 

A:私にはきょうだいがいて,私とは折り合いが悪く,親が亡くなったら,自分もその不動産が欲しいなどと言ってくるかもしれません。

 

B:私の妻と親との折り合いが悪く,私も間に入っているうちに親との関係がこじれてきました。これまでずっと面倒をみてきたのですが,親が急に「お前にはやらない」と言い出すのではないかと不安です。

 

今のうちに,何かできることはありますか?

 

遺言

この場合,親御さんに,不動産は相談者に相続させる・遺贈する旨の「遺言」を作成しておいてもらうのが王道です。

遺言は,公正証書遺言にしておくのがよいと思いますが,令和2年7月10日から自筆証書遺言書保管制度が開始されており,法務局で自筆証書遺言を保管してもらうこともできます。

遺言書があれば,相談者は不動産を取得することができますので,Aの心配は一応のところ,解消できます。ただし,「相続させる」「遺贈する」とされた不動産が特別受益にあたると,これを持ち戻したうえで遺産分割をしなければならなくなります。
相談者が長年にわたり親の面倒を見てきたとか,介護をしてきたなどの事情があるのであれば,遺言内に「持ち戻しを免除する」との意思表示を記載しておいてもらう方がよいでしょう。

ただ,遺言というのは,いつでも撤回が可能です(民法1022条)。
したがって,翻意した親御さんが,すでに作成した遺言の内容とは異なる内容の遺言を作成することによって,親御さん名義の不動産を相談者に相続させないことも,いつでもできることになります。

負担付死因贈与契約

そこで,「死因贈与契約」を締結するという方法があります。「親の面倒を見る」という負担付であれば「負担付死因贈与契約」です。

死因贈与契約というのは,贈与者が亡くなった時に,亡くなったことを原因として贈与が行われる旨の契約です。贈与者と受贈者との間で成立する契約ですので,贈与者の一方的意思表示では行えず,受贈者の合意が必要となります。

死因贈与も遺贈の規定が準用されますので(民法554条),原則的には贈与者からの撤回が可能なのですが,「負担付」死因贈与の場合は,負担の履行がなされた場合は原則として撤回できないとするのが判例です(最判昭57.4.30)。

判決要旨:負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与の受贈者が負担の全部又はこれに類する程度の履行をした場合には、右契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値との相関関係、契約上の利害関係者間の身分関係その他の生活関係等に照らし右契約の全部又は一部を取り消すことがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、民法1022条、1023条の各規定は準用されない。

したがって,親の面倒をみてきたという,負担の履行実績がある場合は,よほどのことがない限り,親の一存で翻意はできないことになるでしょう。

また,不動産の死因贈与については,不動産に仮登記(始期付所有権移転仮登記)をしておくことができます(遺贈の場合は仮登記はできません)。

そうすると,Bの心配も解消される「負担付死因贈与契約」を締結する方が,「遺言」を作成してもらうより,相談者の権利の保全が強固になるといえそうです。

ただし,注意すべき点があります。

  • 遺言には法に定められた方式がありますが,贈与の場合は,必ずしも書面にしなくとも口頭でも契約が成立することはします。ただ,親が亡くなった後に,他の相続人に(死因)贈与契約があったことを主張しても納得を得られないことが多く(立証も困難),他の相続人に協力してもらえないと登記したり預金をおろしたりすることができません。したがって,死因贈与契約の場合も,必ず書面(公正証書が良いと思います)にしておくべきです。
  • 遺言の場合は,遺贈を受けた受遺者は,遺贈を放棄することができますが(民法986条),死因贈与は契約なので,後にいらないと思っても放棄はできません。
  • 死因贈与により不動産を取得する者が相続人である場合は,受贈者に不動産取得税が課税されることになり,税金は遺贈の場合と比べ,多く納めることになります。
    * 受遺者が相続人ではない第三者の場合は,不動産取得税は課されますので,遺贈でも死因贈与でも違いはないことになります。
    相続人が取得する場合は,不動産取得税のほか,登録免許税についても適用税率に差があり,遺贈よりも死因贈与の方が高くなります。

何もせずに亡くなった場合は?

親御さんが作成した遺言がなく,死因贈与契約も締結していなかった場合は,どうなるのでしょうか。

この場合は,親御さんと一緒に居住していた不動産(親名義)についても,他の共同相続人とともに遺産分割協議を行わなければなりません。

遺産分割について,調停になるような件(相続人間に争いのある件)では,調停の場で「親が自分にくれると言った」と主張しても,他の共同相続人の納得が得られることは少ないです。逆に,「一緒に住んで親のお金を使い,おいしい思いをしたのでは」などと言われることもあるくらいです。ただ,その不動産に現在も住んでいるという事実があれば,不動産を相談者が取得する方向で話が進むことが自然ですが,不動産を取得する代わりに,不動産を評価して他の相続人に法定相続分相当の代償金を支払う必要が出てきます。

*もちろん,他の共同相続人が親と同居し面倒を見ていたのだから,と納得して,相談者が取得することに無条件で合意してくれれば,何の問題もありません。

遺言書も何もなく親御さんが亡くなった後では,相談者の思うように遺産分割が進むとは限りませんので,親御さんがご存命で,判断能力がしっかりしているうちに,遺言書なり契約書なりを作成しておいてもらうべきといえます。