配偶者居住権の評価方法

配偶者居住権の評価は,「簡易な評価方法」といわれる以下の計算方法を用います(合意ができることが前提です)。
評価を合意できず争いになる場合は,最終的には鑑定が必要になります。

配偶者居住権の評価方法

配偶者居住権の価格は,以下のように求めます。

(Ⅰ 建物と敷地の現在の価格(Ⅱ① 負担付建物所有権 + Ⅱ② 負担付土地所有権等

Ⅰ 建物と敷地の現在の価格

これについては,これまでの運用と変わるところはなく,固定資産税評価額もしくは時価に基づいて評価を合意するか,鑑定をして確定させます。

Ⅱ① 負担付建物所有権

配偶者居住権を設定した場合に建物所有者が得ることになる利益の現在価値のことです。配偶者居住権が消滅した時点の建物の価値を算定して,これを現在の価値に引き直します。

負担付建物所有権の価額
固定資産税評価額
×法定耐用年数-経過年数-存続年数法定耐用年数-経過年数
× 法定利率による複利原価率

  • 法定耐用年数は,減価償却資産の耐用年数等に関する省令(S40.3.31大蔵省令第15号)により,構造・用途ごとに規定されており,木造の住宅用建物は22年,鉄筋コンクリート造の住宅用建物は47年と定められています。
  • 配偶者居住権の存続期間が終身である場合は,簡易生命表記載の平均余命の値を使用します。

Ⅱ② 負担付土地所有権

敷地所有者は,配偶者居住権の存続期間中は敷地を自由に利用できませんので,配偶者居住権の存続期間満了後(配偶者居住権が消滅した時点)の負担のない所有権の価格を現在価値に引き直して算出します。

負担付土地所有権の価額
= 敷地の固定資産税評価額ないし時価
× 法定利率による複利原価率

算式中,分数の分母又は分子がゼロ以下になる場合は,分数の項をゼロとすることとされています。配偶者居住権の存続年数が居住建物の残存耐用年数(法定耐用年数-経過年数)を超える場合には,結果的に居住建物の時価と配偶者居住権の評価額が一致することになります。

計算例

(具体例1)

建物:築10年,木造,固定資産税評価額1000万円
土地:固定資産税評価額4000万円
相続開始時の配偶者(妻)の年齢76歳
配偶者居住権の存続期間:終身
の場合
Ⅰ:1000万円+土地4000万円=5000万円
Ⅱ①:1000万円×0円=0円
※配偶者の平均余命が15.15≒15年が,残存耐用年数(耐用年数22年-経過年数10年=12年)を超えるため
Ⅱ②:4000万円×0.642(存続期間15年の複利原価率)=2568万円

よって,5000万円-2568万円=2432万円が配偶者居住権の価額となります。

(具体例2)

建物:築15年,鉄筋コンクリート造,固定資産税評価額1400万円
土地:固定資産税評価額6000万円
相続開始時の配偶者(妻)の年齢60歳
配偶者居住権の存続期間:終身
の場合
Ⅰ:建物1400万円+土地6000万円=7400万円
Ⅱ①:1400万円×(47-15-29/47-15)×0.424(存続期間29年の複利原価率)≒56万円
Ⅱ②:6000万円×0.424(存続期間29年の複利原価率)=2544万円

よって,7400万円-56万円-2544万円=4800万円が配偶者居住権の価額となります。

法定耐用年数について,弁護士向けの書籍では,「減価償却資産の耐用年数表」記載の耐用年数をそのまま使用していますが,国税庁のHPなどでは,これを1.5倍にして計算しています(たとえば木造の場合は耐用年数22年×1.5=33年,鉄筋コンクリート造の場合は47年×1.5=71年)。非事業用の建物の場合は耐用年数表記載の耐用年数を1.5倍にするようなのですが,裁判所ではこれとは異なる扱いをすることになるのでしょうか???(具体例では,耐用年数表の数字をそのまま計算の基礎として使用しています。)始まったばかりの制度なので,今後どのようになっていくのか,注視していく必要があるでしょう。