遺産分割したいが行方不明の相続人がいる

遺産分割は相続人全員で

亡くなった方に財産がある場合、それをどう分けるかを相続人全員で話し合う必要があります。これを遺産分割といいます。共同相続人のうち一人でも欠けていると遺産分割は無効となってしまいます。行方の知れない相続人がいるとしても、その者を抜きに遺産分割協議を進めることはできません。
遺産分割ができないと、不動産の相続登記も行えず売却ができない(注1)、銀行口座の解約ができない(注2)といった問題がでてきます。

(注1)法定相続分で相続登記をすることは、共同相続人の1人の申請で可能です。※ただしこの場合でも遺産分割は未了のため、共有物分割請求はできませんし(関連記事はこちら相続登記で共有になっている場合に注意)、行方不明者がいる状態では売却等の処分はできません。
(注2)預金の払戻しであれば、法定相続分の3分の1まで(ただし上限150万円)は、可能です(関連記事はこちら遺産分割前の預貯金の払戻し制度

相続人の捜索

相続人を調査する場合、被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍が必要になります。戸籍をたどることにより相続人を確定させ、相続人にあたる人の戸籍の附票を取得することにより、住民票上の住所が判明します。
住所がわかれば、手紙を送ったり、訪ねて行ってみるなどの方法により、相続人と連絡がつくことも多いかと思われます。

居場所が知れず、連絡も取れない場合

しかし、住民票上の住所地に居住しておらず、どこにいるか全くわからなくなっていることもあります。そのような場合に遺産分割を成立させるためには、以下の手段をとる必要があります。

  • 不在者財産管理人の選任を裁判所に申し立てる(民法25条)
  • 失踪宣告を申し立てる(民法30条)

不在者財産管理人とは

従来の住所又は居所を去り容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に,家庭裁判所は,利害関係人または検察官の請求により,不在者の財産の管理に関する処分を命じることができるとされています(民法25条1項)。通常は、財産管理人の選任がなされます(実務上このようにして選任された管理人を「不在者財産管理人」といいます。)。

申立

*申立人は、利害関係人(不在者の配偶者,相続人にあたる者,債権者など)と検察官です。
不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に、申立をします。
*申立に必要な費用と書類→裁判所HP*申立人や不在者の特定、申立人の利害関係、不在者の不在の事実、管理すべき財産の状況等を把握するために資料を添付します。遺産分割が申立の主な理由である場合は、被相続人の出生時から死亡時までの継続した戸籍や相続関係図等も提出する必要があります。
家庭裁判所は,申立書や所在不明となった事実を裏付ける資料を確認した上で,申立人から事情を聴いたり,不在者の親族に照会したりしたうえ、管理開始の要件を満たしていると考えられる場合は選任審判をします。

不在者財産管理人の職務

選任された不在者財産管理人は、不在者の代理人法定代理人)です。
*権限の定めのない代理人と同様、民法103条に定める、保存行為、物または権利の性質を変えない範囲の利用・改良行為のみができ、これを超える行為をするときは家庭裁判所から権限外行為の許可を得る必要があります(民法28条前段)。
遺産分割処分行為に当たり、管理人の権限を超えますので、裁判所の許可を得ることが必要となります。
*財産目録の作成(民法27条1項)、財産状況の報告をする必要があります。
*委任の規定が準用され、財産管理人は、善管注意義務、受取物引渡義務を負い、費用償還請求権を有します(家事146条6項)。

■不在者財産管理人が遺産分割をする場合、予め裁判所に遺産分割協議書案を提出して、裁判所の権限外行為許可を得る必要があります。協議の成立にあたっては、不在者が不当な不利益を受けることのないよう法定相続分を確保することが原則となっています。ただし、事案・事情によってはこれを下回ることも可能であり、帰来時弁済型とすることも可能です。

  • 裁判所が、内容の相当性を審査できるよう、許可を求める審判を申し立てる際には、遺産の範囲・評価を記載した財産目録の提出と、不在者を含む各共同相続人が取得する遺産と取得額を明示した分割案を作成することが望ましいです。

帰来時弁済型の遺産分割協議とは、遺産分割の時点では遺産を不在者に取得させず、その代わりに特定の共同相続人に対し、不在者が帰来したときに不在者に対する代償金等の支払いを命じる型の遺産分割協議をいいます。不在者の帰来する可能性が低く、帰来した場合でも他の共同相続人に資力があり不在者が取得すべき財産に相当する代償金等を支払うことが可能であり、かつ、不在者に直系卑属がいない場合には、帰来時弁済型の遺産分割を成立させることが可能と解されています。

遺産分割終了後の任務

遺産分割を目的とする不在者財産管理人選任申立事案では、帰来時弁済型の遺産分割を成立させた場合は、成立させた遺産分割協議書の写しを管理終了報告書とともに裁判所に提出すれば、管理人任務は終了することになります。

何らかの遺産または代償金を取得した場合は、管理人の任務は継続します。したがって、成立した遺産分割協議書の写しと、取得した遺産の目録(代償金を取得した場合は、入金した管理口座通帳の写し)を提出して報告をします。

■任務が継続した場合の管理終了はいつ?

不在者が財産を管理できるようになったとき、管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、裁判所は選任審判を取り消すことができます(家事147条)。財産を引き継げる人が現れたときは、その人に財産を引き継ぎ、管理終了報告書を裁判所に提出して終了となります。
そうでない場合は、管理人はその後も財産の管理を継続しなければならないため、管理期間が長期にわたることになり、管理人の負担は大きいものになります。そこで、裁判所と管理人は、不在者の利益保護に配慮しつつも、管理負担の軽減について適宜協議することが望ましいです。親族の了解を得て、次に説明する「失踪宣告」の申立を行うことも取りうる手段のひとつです。

 

失踪宣告とは

行方の知れない人(不在者)の

  • 生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)
  • 死亡の原因となる危難(戦争,船舶の沈没,震災など)に遭遇した者の生死が危難が去った後1年間明らかでないとき(危難失踪)

は,家庭裁判所は,申立てにより,失踪宣告をすることができます(民法30条)。
*生死の情報が存在しなくなった時点から起算してその状態が7年あるいは1年継続することが必要です。
失踪宣告とは,生死不明の者に対して,法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です(民31条)。

申立

*失踪審判をするためには、利害関係人の請求があることを要します。

  • 利害関係とは、法律上の利害関係があることをいいます。たとえば、不在者の配偶者,相続人にあたる者,受遺者、保険金受取人、親権者、未成年後見人、成年後見人、任意後見受任者、任意後見人、保佐人、補助人、後見監督人、保佐監督人、補助監督人、財産管理人,遺言執行者、不在者の死亡により債務を免れる者、不在者の死亡により財産を取得する者などが挙げられます。債権者は、不在者財産管理人を選任させてその者を相手方として債権を取り立てればよいため、失踪宣告の場合は利害関係人に当たらないと考えられています。
  • 不在者財産管理人の請求と異なり、検察官は除かれます。

*不在者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所に申立をします。
*申立に必要な費用と書類→裁判所HP。*

申立後の手続

多くの場合,申立人や不在者の親族などに対し,家庭裁判所調査官による調査が行われます。その後,裁判所が定めた期間内3か月以上危難失踪の場合は1か月以上)に,不在者は生存の届出をするように,不在者の生存を知っている人はその届出をするように公告をします(家事148条4項)。裁判所は、公告期間満了までに届出などがなかったときは失踪宣告の審判をします。

効果

不在者の生死が不明になってから7年間が満了したとき(危難失踪の場合は,危難が去ったとき)に死亡したものとみなされ,不在者(失踪者)について死亡により生じる効果(相続の開始など)が生じます(民法31条)。
■失踪宣告の審判が確定した場合は、相続開始の効果が生じますので、不在者の相続人と、遺産分割協議を行うことになります。

失踪が宣告された後の手続

失踪宣告の審判が確定すると公告されます(家事規89条)
申立人には,戸籍法による届出義務があります(戸籍法94条)ので,審判が確定してから10日以内に,市区町村役場(不在者の本籍地又は申立人の住所地の役場)に失踪の届出をしなければなりません。届出には,審判書謄本と確定証明書が必要になります。

まとめ

行方不明の相続人がいる場合、遺産分割協議をするために、不在者財産管理人の選任申立と、失踪宣告の申立と、どちらを選択すべきか迷うこともあるかもしれません。

不在者財産管理人は、不在者の財産が放置されて散逸することによる不在者の損失を防止し、不在者の財産を保存するものであり、失踪宣告は、不在者の生死不明が永続した場合にその者の死亡を擬制して法律関係を確定させるための制度です。

不在者は、従前の住所を去り、容易に帰来する見込みがない者をいいますが、必ずしも生死不明であることは要しませんので、生きていることが分かっていても選任できます(ただし、管理すべき財産があり、不在者により管理ができないことは必要です)。失踪宣告は、生死不明の状態が7年以上経過している必要があります(普通失踪の場合)。失踪宣告の要件を満たしていても、不在者財産管理人の選任を申し立てることもできます。

不在者財産管理人により遺産分割を成立させる場合は、事前に裁判所の許可が必要で、不在者に法定相続分を確保するのが通常ですので、管理人は遺産分割以後も財産を管理する必要があります(帰来時弁済型は別)。管理人は報酬請求もでき、認められると不在者の財産の中から報酬を付与されます。長期に生死不明で帰来の見込みがないのであれば、失踪宣告のほうが、不在者の相続人との間で遺産分割ができ、不在者に法定相続分を確保させるという要請がなくなりますので、柔軟に分割できる場合もあるかもしれません。

しかし、失踪宣告がなされると、不在者は死亡と扱われますので、抵抗感を抱く親族がいることもあるでしょう。失踪宣告は公告も必要なので、確定するまで時間がかかります。
失踪宣告の効果は、宣告のときに死亡とみなされるのではなく、生死不明となってから7年間が満了したときに死亡とみなされますので、生死不明となった時期の特定が必要になります。

どちらを選択するかは事案によりますので、迷った場合は専門家に相談することをお勧めします。

なお、どちらの場合も、裁判所は、関係官署に対して調査嘱託を行うことが多いです(不在者の犯罪歴や逮捕歴の有無(警察)、運転免許証の交付の有無(警察)、出入国記録(出入国在留管理庁)、パスポートの発給(外務省)、婚姻・離婚届の有無(法務局)などです。)。以前、裁判所の照会により運転免許証交付の事実が分かり、失踪宣告の申立の取り下げを促された件があります。無事、失踪宣告の審判得て、相続手続を完了した件もあります。

 

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